仲川秀樹『コンパクトシティと百貨店の社会学』

 仲川秀樹先生より、だいぶ前に本をいただきました。毎度毎度本当に恐縮しています。心よりお礼申し上げます。それにしても、何冊目の本になるのでしょうか。毎年生まれ故郷でもある酒田市で学生といっしょに調査実習を行い、その成果を着々とまとめ、公刊していらっしゃることは、貴重な研究教育成果であると考えます。
 仲川先生の調査や商店街との連携については、ネット上にもいろいろと記録が残されています。これからの大学は、こうしたグループワークをしているかどうかが、非常に重要なポイントになると思いますし、じっくりと学ばせていただくつもりです。

内容

 コンパクトシティ機能をもつ「酒田の中心市街地・中町」を対象モデルとし、中心市街地のシンボルである地方百貨店「マリーン5清水屋」を取り上げ、コンパクトシティ中心市街地再生の可能性を探っていく。
 地方都市の百貨店トピックに関する大学生1000人調査や、百貨店の重要性とメディア環境を検証したフィールドワーク、「2011年中町シンポジウム」の記録など多角的に百貨店問題を検証する。

目次

第1章 中心市街地とコンパクトシティ
 第1節 社会学から考えるコンパクトシティ
 第2節 中心市街地の現実とコンパクトシティへ向けて
 第3節 コンパクトシティをめぐるシステム問題
第2章 中心市街地のシンボル「百貨店」
 第1節 中心市街地が消えてから三五年
 第2節 中心市街地と郊外型社会
 第3節 中心市街地と百貨店
 第4節 「マリーン5清水屋」のあらたな挑戦
第3章 百貨店のトピックに関する大学生1000人調査
 第1節 地方都市の百貨店をめぐる大学生調査
 第2節 「マリーン5清水屋」のトピックに関する調査
 第3節 「マリーン5清水屋」のコミュニケーション企画
 第4節 女子学生の百貨店プロデュース
 第5節 大学生1000人調査の総括
第4章 百貨店の重要性とメディア環境の検証
 第1節 2010年フィールドワーク(予備調査)
 第2節 2011年フィールドワーク(予備調査)
 第3節 2011年フィールドワーク(本調査)
 第4節 メディアとフィールドワーク2010〜2011
第5章 「マリーン5清水屋」百貨店リポート
第6章 中心市街地シンボルのゆくえ―百貨店の存在価値を探る―
結び コンパクトシティの鍵を握る百貨店「マリーン5清水屋」
http://www.gakubunsha.com/cgi-local/search.cgi?id=book&isbn=978-4-7620-2249-4

この本を理解するためには、酒田の大火についてそれなりの理解がなければならないと思う。記録サイトが残されているので参照されたい。大火事は、仲川先生の上京と前後している。街の消失と再生の記憶が、百貨店を1つの核として丁寧に描き出されている。そしてまた、メディア、コミュニケーション、トレンドといった、仲川先生の鍵語が目次化されており、従来にも増した成果を自負されているのではないかと、拝察した。
http://www.city.sakata.lg.jp/sakata_tmp/taika/
 震災1年を経ての出版というのは、偶然なのだろうとは思うが、どうしても関連性を考えてしまう。コンパクトシティという視点を用いたことは、もちろん都市社会学的な研究の位置づけということもあるのだろう。しかし、三浦展氏などによる、アウトレットモール論などとも対照し、さらにそれを震災復興というような論点とも照らしあわせてみると、いろいろな思索の手がかりを得られる。津波で消失した街並みと火事で焼失した街並みではいろいろ違う面もあるだろうし、街の規模、人口、歴史などにも多くの違いがある。しかし、いろいろな手がかりがこの1000人調査から明らかになるように思う。三浦展氏が行った大学との連携における商店街再生論などとも読み比べてみようと思う。