テス・リッジ『子どもの貧困と社会的排除』

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 中村好孝さん、松田洋介さんのお二人から、翻訳書を送っていただいた。監訳者はお二人の師匠となる渡辺雅男先生である。心よりお礼申し上げたい。中村さんは、ミルズの著作を書いたときの共著者、松田さんはその仕事を通して知遇を得て、いろいろ話すようになった研究者である。
 書名をみて、たとえば阿部彩『子どもの貧困―日本の不公平を考える』(岩波新書)などによって示された問題文脈が思い浮かぶ。格差社会論のなかでも、重要な論脈に連なる業績であることは間違いないだろう。しかし、この翻訳は、格差社会論などというはやり言葉などとは一線を画し、行われてきた階級と貧困、経済と政治などをめぐる社会科学的な研究の成果である。
 私は「・・・社会論」を社会学的に研究する側にいる人間であるけれども、大月書店の『講座現代日本』などを読んで育った中村さんや松田さんとの議論から多くを学ばせていただいている。監訳者のもとで学びながらも、あるいは就職され、あるいはまたDCから専門をシフトし、福祉社会学と教育社会学というような学問を探究され始めたお二人に、監訳者がこの書物の翻訳をするようにおっしゃった、ということそれ自体が、実に興味深い。

子どもの貧困と社会的排除

子どもの貧困と社会的排除

書籍紹介:

 貧困家庭の子どもから見える、家族、学校、友人関係、そして自分の将来。「流行についていけない。」「放課後友だちと遊ぶお金がない。」…現代の消費社会のなかで、いじめや排除と隣り合わせに生きる子どもの貧困経験を、子どもに直接インタビューすることで得られた生の声をとおして浮き彫りにする。

目次:

第1章 挑戦的課題としての「子どもの貧困」ー子どもを中心に据えたアプローチ
第2章 子ども期の貧困について、私たちはなにを知っているのか
第3章 経済的・物質的資源を子どもたちはどう確保しているか
第4章 「仲間に溶け込むこと」と「仲間と参加すること」ー社会関係と社会統合
第5章 家庭生活と内省
第6章 学校についての体験と認識ーイギリス世帯パネル若者調査(BHPYS)データの分析
第7章 子ども期の貧困と社会的排除ー子どもたちの視点を組み込んで
付録 第七回イギリス世帯パネル若者調査(BHPYS)について

 本書の最大の特徴は、あくまでオーソドックスな理論に基づきつつも、イギリス世帯パネル若者調査(BHPYS)データの分析を行っていることではないかと私は考えている。最近いろいろな最新の調査研究の成果を読んでいて、仕方なく読んでいるけれども、正直あまり面白くない、と思うことも少なくない。しかし、この著作の場合は、そういう意味での抵抗なく本に入っていけるところがある。それは、なんか学部時代に学んだ学問と響き合うところが大きいからだろうが、それだけではなく、本書の提起する問題が、重要な学問的示唆を含んでいるからだろうと思う。