『社会学的想像力』誤訳集 from名古屋大学

 名古屋大学の上村泰裕先生が、大学院ゼミで検討された結果を、「改訂時の参考に」と言うことで送ってくださいました。また、以前に作成した重要箇所の抄訳のリンクもお知らせいただきました。http://www.lit.nagoya-u.ac.jp/~kamimura/mills.pdf いずれも、精読する上で重要な資料と思いますので、先生の承諾を得て、公開共有させていただけることになりました。活用いただけましたら幸いです。

 ミルズ『社会学的想像力』(ちくま学芸文庫、2017年)誤訳集


【1章】

17頁
一つの方法にすぎない→ただ一つの方法だ

19頁
私的問題→困難

21頁
なにが最良なのかをめぐる試金石→最良なもののしるし

24頁
私的問題→個人的困難

33頁
始末に負えない→制御不能

34頁
評者→コメンテーター

この用語を用いることで、非常に強い信念を示すことができる。他の用語や省察スタイルは、問題の回避や曖昧化にすぎないように見える。
→物理学や生物学の用語に絶大な信頼を置くことができる一方、他の用語体系や思考様式は逃避や曖昧化の手段に過ぎないかのように思えてくるのである。

37頁
自然が明白に征服され、食糧難が解決されたのはほぼ間違いない、と過剰開発された社会の人間は感じている。
→自然の征服と欠乏の克服はほぼ達成されたと超先進社会の人々は感じている。

40頁
大きな図絵→全体像

41頁
…テーヌは、現代への関心が強く、よい歴史家たりえなかった。理論にすぐれていたので、よい小説家たりえなかった。そして、文学を、特定の時代や国における文学の記録であると考えていたため、一流の批評家たりえなかった。
→彼はたんなる歴史家になるにはあまりに現代への関心が強く、たんなる小説家としてやっていくにはあまりに理論家であった。たんなる批評家として一流の地位を築くには、彼の文学思想はあまりにも一時代ないし一国の文化全体の記録でありすぎた。

彼はこうした著作により実証主義思想を伝えた→彼の実証主義の手段であった

44頁
技術者→技術屋

【2章】

75頁
政治の正統化とその根拠→政治の正統化とその原因

76頁
理論(the theory)→唯一の理論

79頁
「共通価値」をひとつにまとめることは決して必要ない
→「共通価値」の統一は決して必然ではない

81頁
だいたいにおいて、私たちは常にそうした決着に止まるわけではないのである
→とは言うものの、私たちは常に最終段階に直面しているわけでは決してないのだ。

82頁
の鍵→を理解する手がかり

83頁
アンカー・ポイント→判断基準


86頁
それぞれずいぶんと異なる→それぞれの社会でずいぶんと異なる

88頁
調和(correspondence)→一致

「統整(co-ordination)」→「調整」

92頁
理論体系→この理論体系

抽象的な理論体系→この抽象的な理論体系

93頁
グランド・セオリーというものは、問題も、検討も、解決も、威厳たっぷりの普遍的な理論性をもっている
パーソンズの問題、方針、解答のいずれも、傲慢なまでに理論的なのである

【3章】

96頁
「意見(opinion)」については、通常の時事的・一過的な典型的政治問題についての発見だけでなく、態度、感情、価値、情報など関連する行為を含めて、私は考える。
→「意見」と言うと、時事的一過的な、典型的には政治的なテーマに関する意見をさすのが普通だが、私は、態度、感情、価値観、情報、および関連する行為も含めて考えることにしたい。

100頁
「移行」されることはなく→「翻訳」などできるはずもなく

ヴェーバーが試論的に統計化した「社会階級」
→統計では扱いにくいヴェーバーの「社会階級」




101頁
アメリカの階級、地位、権力などの構造→階級、地位、権力などの全国的構造

技術者→技術屋

107頁
一般化するにはお粗末な主題→一般化するのは好ましくない主題

108頁
なんらかの→ある種の

その特徴的な方法ではなく、方法論的という専門性から定義する
社会学に特徴的な方法によって定義するのではなく、方法論の専門学科として定義する

110頁
幸福の評定を集める→幸福を測定する

114頁
社会学者が突然→この社会学者は突然

115頁
不適切→不十分

具体的な問題→自分の具体的な問題

118頁
明らかにポリシー→明示的な方針

119頁
ポリシー→方針

お粗末な承認→通り一遍の挨拶

121頁
研究実践は→実際には

128頁
杓子定規なものではないこと→いかに何とでも言えてしまうか

130頁

経験主義の明解な方法は、哲学とは区別されるもので
→経験主義の哲学はさておき、経験主義の個々の方法は

【4章】

135頁
社会科学者はしばしば自分たちが合理的であると思い込んでいるわけだが、すべての人がそれと同じくらいに合理的なわけではない。
社会学者はみな、自分が信じているほど合理的ではない。

139頁
全体像→全体

140頁
公共の財→公共の財産

147頁
宗主権力→宗主国

149頁
制度づくりを行う→制度的な

152頁
と誰かがかつて言ったに違いない→と言った人がいなかったっけ。

154頁
古い考え方と新しい事実は、しばしば新しい考え方より重要であることが多いが、しばしば教室でのテキスト「採用」数を制限する危険のあるものとして考えられる。
→古い考え方と新しい事実は、しばしば新しい考え方より重視される。教科書に新しい考え方を盛り込むと講義で採用されにくくなる、と考えられているからである。

155頁
個人事案→個々のケース

156頁
事案→ケース

157頁
「ふさわしい」→「必要とされている」

160頁
社会性をまとっていない言葉→社会的にむき出しの言葉

【5章】

179頁
問題の特定・選択→明確な問題の選択

こうした公衆から…重視してきたのである。
→何ものにも囚われない客観性という考え方は、曖昧で一定しない圧力に対する敏感さに基礎を置くものであり、したがって、ささやかながらも独立していて指図されない研究者一人ひとりの関心にこそ基礎を置くものだったのだが、それがこの公衆からクライアントへの移行によって掘り崩されることは疑いない。

182頁
調査技術者→調査技術屋

183頁
当時主流であった西欧の思考モデルに熱中していた
→西洋社会の主要な思考様式を身につけていた

184頁
調査技術者→調査技術屋

185頁
技術者→技術屋

187頁
技術者→技術屋

192頁
遠大→誇大

202頁
「集合的な自己制御」には…可能になる。
→これまでにさまざまな種類の「集合的自己制御」が考案されてきた。集合的自己制御について十分に論じようと思えば、自由と理性、理念と価値に関するあらゆる問題を論じなければならない。さらに、社会構造の一類型としての、また一連の政治的期待としての「民主主義」の理念についても論じる必要がある。

【6章】

207頁
役立つものである→それなりに役立つものである

想像力を解放して→モデルによって想像力を解放して

研究のヒントを得る→モデルから研究手続のヒントを得る

臆病→おかしな心配

210頁
方法論議が現れている→方法論議が実際に行なわれている

212頁
警告を受けている→警告したい

213頁
研究を行え!→仕事をしろ!

アイディア→理念


214頁
アイディア→理念

217頁
ポリシー→方針

219頁
ポリシー→方針

220頁
ポリシー→方針

221頁
マクロ的→巨視的

ラインナップ→構成

に基づくものである→しだいである

222頁
究明はおろか対峙すらされてこなかった→解明も対峙もされてこなかった

【7章】

230頁
大規模な歴史的構造の観点から、小規模な生活圏を選択して研究する必要がある。
→小規模な生活圏は、大規模な歴史的構造と関連づけて選択し研究すべきである。

233頁
調査専門家→調査技術屋

236頁
全体主義的であり形式的には民主的でもある
全体主義的なものも形式上は民主主義的なものも含めて


237頁
非個人的→非人格的

239頁
主要西側諸国→主な西洋諸国

242頁
百科事典的→百科全書的

【8章】

246頁
今のところ→いまや

247頁
主題が軽視されて→主題が当然視されて

250頁
という意味である→ことを意味する

253頁
歴史的で比較可能な素材→歴史的素材や比較的素材

254頁
固有の時代の観点で→特定の時代と関連づけて

一つの独特なパターンのようなもの→何らかの独特なパターン

255頁
そう言ってよければ→ないしは

258頁
自律的な創造→自律的な創造物



266頁
しかし撤退するためには、歴史と社会の性質について、有益でもなければ正しくもない想定をする必要がある。
→しかしそんなことをすれば、歴史と社会の本質について有益でも真実でもない想定をするはめになるだろう。

277頁
多分そうするはずである→多分そうすべきなのである

【9章】

280頁
私たちを混乱させる→私たちに方向を見失わせる

282頁
であり続けるのであれば→であり続けるべきだとすれば

283頁
言い換えられねばならない→立て直す必要がある

286頁
このような合理化という支配的趨勢の影響を考えれば
→合理化という支配的趨勢のこのような作用を前提として

288頁
現代の社会科学の怠慢になりうるものにそれほど深く関係する
→現代の社会科学では放棄されかねない

289頁
今日ではややもの悲しそうな側面→今日ではむしろ切ない側面

291頁
それを定式化することにあるのだろう→それを定式化することにある

294頁
未来は決定されるものだ→未来は私たちが決定できるものだ
そしてネガティブ面でいえば→逆に言えば

296頁
怠慢によって進行する→放棄されてしまう

【10章】

297頁
明確な議論→明示的な議論

298頁
キャッチフレーズ→お題目

304頁
明確な決定→明示的な決定

305頁
自分でかってに選んだ事情→自分で選んだ状況

306頁
自分でかってに選んだ事情→自分で選んだ状況

307頁
彼らの事情→彼らの状況

308頁
陳腐な関心→些末な研究

自由の限界と、歴史における理性の役割の限界を確定させる
→自由と、歴史における理性の役割を極限まで推し進める

309頁
構造的問題について適切に述べるのであれば…
→社会科学者の発言を、彼らの願いを聞き入れてくれそうな生活圏の問題に限定するのは適切ではない。

311頁
権力をもっており、そのことを自覚している人々に対しては…
→権力をもっており、そのことを自覚している人々に対しては、彼らの決定や非決定が構造的結果に重大な影響を及ぼすことを研究によって明らかにし、各種の責任の取り方を教える。

319頁
私たちは主に法律的形式と形式的期待においては
→私たちは主に法律的形式と形式的期待においてのみ

【付録】

329頁
論文を並べる→論文を準備する

336頁
たまには創造的な人でなければならないが→時には想像上の人々であるかもしれないが

あらゆる重要な社会的・知的環境→社会的・知的に関連のあるすべての環境

342頁
格好の研究→格好の仕事

343頁
独創的でなければならない→工夫がなければならない

350頁
本全体に組み入れられる→一冊の本になる

355頁
一般性のレベルを注意して見張ろうとする→一般性のレベルに注目する

しばしば感じるであろう→しばしば気づくであろう

358頁
溺れるかもしれない→溺れかねないから
359頁
サンプルを抽出する前に世界を知る→サンプルを抽出する前に母集団を知れ

362頁
それが問題なのだ→そこが難しいところなのだ

363頁
散文→無味乾燥な文章

あなたの適切な研究→あなた自身の研究

364頁
読まれるだけの地位→読まれるだけの資格

365頁
自分にどんな地位を要求しているのか→自分にどんな資格があると主張するのか

368頁
誰に読まれるのだろうか→誰に読まれたいのか

373頁
超歴史的構築→歴史横断的解釈

比類のない大事件→一回限りの出来事

狂信的になってはならない→マニアになってはいけない

【原注】

382頁
五〇パーセントが冗談→五〇パーセントが冗漫