船津衛『社会的自我論の現代的展開』

 先日、船津衛先生よりご高著『社会的自我論の現代的展開』いただきました。私のようなものにまでご配意たまわり、ほんとうに恐縮しております。心よりお礼申し上げます。

社会的自我論の現代的展開

社会的自我論の現代的展開

新たな役割形成から自我の再構成へ
ますます複雑化・多元化する世界に対応するため、自我の複数化・分断化を強いられている現代人──単一で恒常的な自我への夢を失った我々に、疎外と自己閉塞を打破する方途はあるのか? 他者の期待に合わせ自己を装い続ける「印象操作」への埋没は、自己喪失への一本道だ。本書は、現代多重共生社会の中で、他者の期待の単なる受容ではなく、それを積極的に乗り越えつつ自己を創発してゆく、新たな「役割形成」論をダイナミックに展開する。


序 章 現代人の自我のゆくえ
第1章 社会的自我の形成
第2章 社会的自我とコミュニケーション
第3章 社会的自我と社会的感情
第4章 社会的自我のナラティブ構成
第5章 社会的自我と創発的内省
終 章 創発的内省による自我と社会の新たな形成に向けて
http://www.toshindo-pub.com/newbook/index.html#shinkan1201-03

 おりしも、なんの気の迷いか、柄谷行人浅田彰蓮見重彦三浦雅士たちによる日本の批評をめぐる対談を読んでいたこともあり、昔を思い出しながら、ページをめくりました。私は、ミードをめぐる論争の中で、どちらかといえばブルーマーのりであったわけですが、そのことの意味は、mind、self(I、me)、societyという逆説的力動、genericな生成を、えいやっ!とベグライフェンしてね?この人、みたいな直感によるものでした。船津先生は、この辺への確信を、さまざまな批判への――将棋でいう意味での――めんどうを見るかたちで、さまざまな研究を発表されてこられたことは、周知の通りです。
 本書は、人間の能動性の論理を基本線にしながら、これまでのミード研究、相互行為論研究の展開をコンパクトに整理し、ターミノロジーなどを整理した上で、社会学理論の現代的展開について一通りのコミットメントをする本となっています。こうした著作は、――僭越な言い方になりますが――誰かが書かなければならなかったものだと思います。いわゆる「構築主義」、親密性論、グローバル社会学、リスク社会論などについて、能動的自我論を基軸としてひとつの筋道がつけられたことは、後進の研究者にとって刺激的な問題提起になっているように思いました。
 創発的内省という用語を鍵としたことは、操作性、他者性その他の議論に対して、真っ向から対立する議論をぶつけていることになるわけですが、同じ紙の裏表といったところまで能動的自我論が展開されることで、実りある議論の手がかりを提示しているようにも思われました。この概念の使用をもって、著作を一刀両断にする人もいるのかと思いますが、上記対談を読んだあとでは、まあ特になにかをいう必要はないと思っています。
 奥村隆さんが『コミュニケーションの社会学』のなかで、新しいゴフマン解釈をしめしていて、儀礼論やプライバシー論の展開と関連して、非常に興味深く思っておりました。このあたりの議論と照らし合わせながら、味読させていただきたいと思っております。
 これとも若干関連するかもしれませんが、エスノメソドロジーがとりあえずペンディングになっていること。ミードの時間論や科学論などとの対比は最小限に抑えられていること。公共社会学へのコミットメントもペンディングになっていること。等々。今後のさらなる展開が予感される一冊でもあったように思いました。
 佐藤毅先生から、「自我論と物象化論」の抜き刷りをお借りして、複写して読んだことを思い出しました。ブルーマーをめぐるイシューだけでなく、こうした論脈でいろいろ思索するのが、私の課題だと思っています。P.122の注を読みながら、動機論をしっかり仕上げることを決意いたしました。本当にありがとうございました。