市川虎彦『保守優位県の都市政治 愛媛県主要都市の市政と市長選』

 国立の料理屋で行われた院生時代の指導教員ゼミの新年会で、久しぶりに市川虎彦氏と会った。私が岡山に就職したあと、しゅーやざわのところに来て、うちのゼミにも出ていたのだが、学会のたびに飲み会で一緒になったりして、よく話すようになった。一本気の好漢で、今や地域社会学の学会でも役職をこなしているようだ。そして今回単著を出した。お礼が何ヶ月も遅れてしまった。ありがとうございます。
 しかし、筆名の単著を出したのには笑った。私は、ずいぶん長く虎彦が本名だと思っていた。また虎彦というのが、高名な武士から採ったものか、それとも単なるタイガースファンなのか、と意見も分かれている。今回よい機会だったので、たずねたらタイガースファンだからだそうだ。

概要

 愛媛県は戦後の自民党政治を底辺で支えてきた「保守王国」の典型である。本書は、この地域の主要都市の市長選と市政の推移を追うことによって、大都市圏中心に構成された地方政治の歴史とは異なる、「もう1つ」の地方政治の流れを浮き彫りにしたものである。

目次

序章 もう1つの地方政治
第1章 地方中核都市の政治―松山市
第2章 地場産業都市の政治―今治市
第3章 企業城下町の政治―新居浜市
第4章 新興工業都市の政治―西条市
第5章 製紙産業地域の都市政治―宇摩地方
第6章 伝統的消費都市の政治―宇和島市
第7章 港湾都市の政治―八幡浜市
第8章 伝統的地方小都市の政治―大洲市
終章 愛媛県市長の類型と時代変遷

 東京から地方の大学に赴任すると、いろいろな思いが押し寄せてくる。赴任前の1月に東京で見た映画が岡山では4月になってようやく封切りになっていた。深夜のマイナーな番組もほとんどない。たとえあっても、一ヶ月遅れはざらだった。本屋は丸善紀伊国屋はあったけど、洋書を手にとってみることはできない。音楽、アート系の映画、お笑い・・・なにもかにもが、絶望的だった。、
 東京では、研究会や学会が頻繁に行われていて、学会に行くたびになんとなく疎外された気持ちになったりすることもしばしばだ。私はその焦燥を自分の中に封じ込め、精神神経疾患で壊れそうになりながらも、たまたま偶然で2人の先輩がとてもよくしてくださり、そのおかげで学内外にたくさんの友人を得ることができて、その支えでなんとかやってきた。しかし、地域に密着した仕事ができたのは、岡山を離れてからのことである。これに対して、市川氏は、地元にじっくり根を下ろした作品を仕上げられた。
 「保守王国」というタイトルに、彼が向かい合ってきたものが見えてくるような気がした。オーソドックスな社会学をになってきた市川氏は、それを自治体ごとに調べ上げ、東京都は違う地方政治のの構図を描き出した。私のように、地方の可能性みたいなものを必要以上にデフォルメすることなく、分析を行っている。立派な業績であると思った。