久富喜之・長谷川裕編『教育社会学』

 土曜日に郵便物のチェックに大学に行くと、松田洋介さんから共著書が届いていた。松田さんは、久富門下の教育社会学者で、岩波ブックレットを分担執筆したり、ネオリベ批判系の現代社会論の著作を分担訳出されたりと、成果をいろいろ発表されている。社会科学概論のゼミで社会構造や社会変動などを研究されることから出発され、それを基礎にして教育社会学の研究へと進まれた。私たちの新著を執筆する過程で、たまたま食事をいっしょにすることになり、共著者ともどもいろいろなコメントをいただいたりした。けっこう話が盛りあがり、何度かコメントや助言をいただき、お礼に献本した。そのことをお気遣いいただき、本をいただいたのだと思う。恐縮するとともに、お礼申し上げたい。
 大阪大学の研究会に押しかけ、九州大学の若手の人たちと研究交流を持ち、東京に帰ってからは都内のさまざまな研究会に顔を出したりして勉強してきた。あまり母校だとか、学風だとかいうことは意識することはなかったのだが、松田さんと話していると、学長選挙などの昔話のこともあるのだろうが、学問的にもいろいろ響きあうものを感じた。松田さんの話題や、論題は、非常に具体的なところに分け入っているのであるけれども、現実への切り込み方をみていると、社会学会でものを考えているときに感じる漠然とした違和感を癒してくれるような気になるのだ。

久富善之・長谷川裕『教育社会学』(学文社

教育社会学 (教師教育テキストシリーズ)

教育社会学 (教師教育テキストシリーズ)

目次

序 章 教職と教育社会学――子育て・教育・教師に社会学的にアプローチする意味
第1章 学校という制度と時間・空間――その性格と文化にアプローチする
第2章 学校で「教える」とはどのようなことか
第3章 教師と生徒との関係は、どのようなものか
第4章 学校教師とはどのような存在か
第5章 若者は今をどのように生きているか――若者の友人関係分析の視点から
第6章 <移行>の教育社会学――教育システムの機能と様態
第7章 子育て・教育をめぐる社会空間・エージェントの歴史的変容と今日・未来
第8章 学校の階級・階層性と格差社会――再生産の社会学
第9章 国民国家ナショナリズムと教育・学校――その原理的考察
第10章 教育改革時代の学校と教師の社会学

執筆分担

久富=序、1、10章/本田伊克=2章/長谷川裕=3、5、9章/福島裕敏=4章/上間陽子=5章/松田洋介=6章/山田哲也=7章/小沢浩明=8章

 松田さんは、今回の論考でも、立岩真也苅谷剛彦広田照幸、天野郁夫、奥村隆、熊沢誠本田由紀など、社会学を学ぶ人によく読まれている本に言及している。また、中内敏夫、後藤道夫、中西新太郎、竹内章郎といった人々の論考に言及している。その引用の仕方や、語り方に、独特のものを感じた。食事の時の雑談でも同じことを感じた。また、ブルデュー、バーンスティン、ハーバーマスなどに論究する際も、独特の読みほどき方をしていてハッとさせられることがあった。
 本の内容は、目次を見れば一目瞭然だが、教育社会学の主要知見を概説しながら、社会の構造変動を捉え、改革の展望を与える――そういう意味での政治的な――展望を考える手がかりを提起している本であるように思われた。多岐にわたる知識を簡明に整理し、説明はわかりやすい。引用されている文献も目配りがきいていると思う。教育社会学だけではなく、青少年論などに関心を持つ人をはじめ、社会学全般に興味がある人には、一つの整理として役に立つのではないかと思う。平明な本ではあるが、その上にネオリベなどの現代の政治的問題がおかれると、エッジの効いた議論が可能になる刺激的な本でもある。そういう意味で、体系的概説書であるとともに、優れた入門書にもなっていると思う。青少年研究会などがとり組んでいる友人関係の問題に一章がさかれていることは、なかなか興味深かった。