菊池いづみ『家族介護への現金支払い』

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 大学のOGで、ご講義を担当いただいている菊池いづみ先生から本をいただいた。本務校のお仕事でご多用中、貴重な時間を使って後輩たちに話をしていただいているだけでも、恐縮なのであるが、本までいただいて、申し訳ないかぎりである。お礼申し上げたい。ぼくらの世界では、菊池いづみというと声優なわけであるが、たぶん別人だと思う。けど、同じだったらすごすぎる。
 菊池先生はシンクタンクの事務局長まで務められた方だが、袖井孝子先生のもとで学びたいということを思い立ち、スパッと辞めて大学院生になったのだという。それで博士論文までまとめて、それを公刊した。今日博士号をとる人も増えてきていて、なかなか公刊しない人も多い。それを公刊されたという事実、そして科研費助成金を受けてのご出版ということで、査読を受けたご単著と言ってよいだろうし、業績的にもポイントが高いものだろう。

家族介護への現金支払い―高齢者介護政策の転換をめぐって

家族介護への現金支払い―高齢者介護政策の転換をめぐって

自治体を対象とする社会調査をもとに、家族介護への現金支払いの全体構造を明らかにし、福祉政策の転換期に表われた変化を可視化。


第1章 「家族介護への現金支払い」の理論的検討
第2章 「高齢者介護政策の転換」の含意
第3章 研究方法
第4章 現金給付に対する市町村の主張
第5章 地方単独事業介護手当と家族介護慰労金
第6章 地方単独事業としての「現金給付」
第7章 家族ヘルパー派遣による現金支払い
終章 研究の総括と課題


菊池いづみ[キクチイズミ]
東京都品川区に生まれる。1978年東京女子大学文理学部社会学科卒業。1987年〜2003年日本政治総合研究所。2004年お茶の水女子大学大学院博士前期課程修了。2008年お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。博士(社会科学)。現在、長岡大学経済経営学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
http://www.nagaokauniv.ac.jp/m-edu/pdf/k_15.pdf

 しっかりとした理論構成と理論展開、手堅い実証というオーソドックスで妥協のない著作である。地域に根ざした手堅い実証は、とりわけ玄人筋から高い評価を受けるものだと思う。それだけだと、門外漢には、なんとなくすごいなぁ、というカンジなのだが、この本は、「現金給付」「日本モデル」というエッジの立った立論がなされており、シャープに論旨が読者に届く。筆力を生かして、評論や新書を書いて、颯爽とデビューするのも、けっして難しいことではないだろう。あるいは、あくまで地域や行政の現場に密着し、そこで玄人ウケするような手堅い仕事を積んで、学会に貢献するという道もあるだろう。いずれにしても、コツコツやることの大事さを痛感した次第である。