藤本一司『生きるための哲学』

 昨秋藤本一司さんが本を送ってくださった。これで5冊目の単著になる。そして6冊目も予告されており、その後送ってくださった。これはまた日を改めて紹介したい。釧路の高専で、理科系の学生を相手に哲学を講じる。そういう場合いくつかの方向性が想起される。理科系の知のようなものと向かい合って、同僚の先生たちとも話したりしながら、自分の専門を鍛え上げるという方向性。生きること、学ぶことなどを、学生たちと一緒に考えるという方向性。仕事は仕事と割り切ってしまう方向性。
 私は第3の方向性で研究を重ねていると長い間思っていたのだが、最初の単著を出されたときに、第2の方向性がくっきりと見えてきた気がした。そして今回の著作は、はっきりと「教室の情景」が見えるようなものになっていると思う。

生きるための哲学―笑顔のコミュニケーションへ

生きるための哲学―笑顔のコミュニケーションへ

第1章 夢と現実のあいだで
 1 「夢」も「現実」も手放さない(アリストテレス「中庸」)
 2 「外見」は、侮れないー(フロイト「無意識」)
 3 「熱情」を「習慣」にまで鍛え上げる
   (アリストテレス「習慣」、プラトンイデア」)
 4 「自分らしさ」に操られない(マルクスイデオロギー」)
 5 未来の希望を語る(ラカン「前未来形」)
 6 人のせいにしない(カント「尊厳」)
 7 善いことを掬い上げる(宮崎駿「生への祝福」)
第2章 「私の位置」を知る
 1 私は「いつもすでに」決断している(ハイデガー「頽落」からの脱出)
 2 迷子であることを知らない迷子とは?(ソクラテス無知の知」)
 3 考えることを考える(カント「超越論的認識」)
 4 「自分の当然さ」を疑う力(フーコー「系譜学」)
 5 「今の自分の限界」を知り、その彼方を開く(レヴィナス「責任」)
第3章 未知性・他者・贈与
 1 未知性を愉しむ(哲学のはじまり「驚く」)
 2 私の「外部」に耳をすます(レヴィナス「他者」)
 3 私の「身体」に敬意を払う(レヴィナス「身体」)
 4 私は幸福である(雲門「日日是好日」)
 5 「物語」が「現実」をつくるー(バルト「エクリチュール」)
 6 交換の愉しさ(レヴィ=ストロース「交換」)
 7 他者からの承認(ラカン「人間の欲望」)
 8 「つながり」を生きる(レヴィナス「贈与」)
文献案内
http://www.hokuju.jp/books/view.cgi?cmd=dp&num=790&Tfile=Data

 かといって、放縦に人生観を語るというのではなく、古典的な書物を読み解きながら、教室での弁証を重ねていることが、伝わってくる書物となっている。藤本氏は、コツコツと本を丁寧に読んでいくタイプだと思っている。私のように、ぺらっとめくって三百代言というのとは対極にある。そうした議論が、学生たちや、さらには同僚との信頼関係の形成につながっているとすれば、とても嬉しいことである。
 本のことをブログで論じている読者と、藤本氏は出会うことができた。さらに交流ができて、ことばが磨き上げられていくことに期待したい。