『日本の社会と文化 (社会学ベーシックス 10)』

 中江桂子先生より社会学ベーシックスの10をいただく。このシリーズは私と中村好孝が二つ共著で執筆しているので、定期購読をしている。私は、一応建前だけを言えば、南博の『日本人の心理』を読んで、志望校を選んだことになっている。よって、ここにならんでいる著作は、非常に興味深いものが多い。しかし、卒論の人気も高い分野であり、二つあって困ることもない。恐縮するとともに、心よりお礼申し上げます。
 中江桂子といえば、モンテスキューに関する重厚な論考を『思想』に書かれた人であり、またスポーツ社会学の注目株として岡山時代に耳にしていた名前である。先輩の市川孝一さんのゼミをとっていたということもあり、成蹊大学の非常勤に呼んでいただいたりした。そんなこともあり、いただくことができた。書かれているのは、「柔らかい個人主義」論である。

日本の社会と文化 (社会学ベーシックス10)

日本の社会と文化 (社会学ベーシックス10)

目次
●いえとむら
1 自然村の精神
  鈴木栄太郎『日本農村社会学原理』(松村和則)
2 同族団としての家連合
  有賀喜左衛門『日本家族制度と小作制度』(鳥越皓之)
3 家族制度イデオロギー
  川島武宜『日本社会の家族的構成』『イデオロギーとしての家族制度』(中里英樹)
4 業績主義的イエ社会
  村上泰亮公文俊平佐藤誠三郎『文明としてのイエ社会』(永谷 健)


●近代化
5 近代化の陰で
  横山源之助『日本之下層社会』(青木秀男)
6 日常経験の歴史
  柳田国男『明治大正史世相篇』(佐藤健二
7 近代化と宗教
  ベラー『徳川時代の宗教』(橋本 満)
8 近代化の内生的要因
  神島二郎『近代日本の精神構造』(北野雄士)
9 通俗道徳の役割
  安丸良夫『日本の近代化と民衆思想』(川田 耕)
10 「近代」の知識社会学
  柄谷行人日本近代文学の起源』(松浦雄介)


●人間関係と価値観
11 「いき」の美意識
  九鬼周造『「いき」の構造』(池井 望)
12 恥の文化
  ベネディクト『菊と刀』(副田義也)
13 都市の庶民生活
  ドーア『都市の日本人』(鯵坂 学)
14 生活誌の豊かさ
  宮本常一『忘れられた日本人』(谷 富夫)
15 社会層としてのサラリーマン
  ヴォーゲル『日本の新中間階級』(尾嶋史章)
16 集団形成の原理
  中根千枝『タテ社会の人間関係』(黄 順姫)
17 「甘え」
  土居健郎『「甘え」の構造』(岡本裕介)
18 成熟のドラマ
  プラース『日本人の生き方』(小林多寿子)
19 消費社会の自我
  山崎正和『柔らかい個人主義の誕生』(中江桂子)
20 日本人論の系譜
  南博『日本人論』(大川清丈)


●政治と課題
21 日本の政治思想
  丸山真男『現代政治の思想と行動』『日本の思想』(道場親信
22 アジアへの視線
  竹内好『近代の超克』(吉田富夫)
23 暗黙の権力構造
  ウォルフレン『日本/権力構造の謎』(小谷 敏)
24 象徴天皇制
  フィールド『天皇の逝く国で』(右田裕規
25 外国人居住者
  奥田道大・広田康生・田嶋淳子『外国人居住者と日本の地域社会』(俵 希實)


人名索引/事項索引/執筆者一覧
http://www.sekaishisosha.co.jp/cgi-bin/search.cgi?mode=display&code=1486

 実は最初はなんでこれをご担当かわからなかった。書くなら近代思想史だろ、とも。しかし読んでみて得心した。というのは、消費の政治学と関連づけた論が展開されていたからである。中江桂子先生が、平野秀秋先生とともに、スチュアート・ユーウェンの『消費の政治学』を訳されていたことを思いだしたからである。
 消費論としては、私は三浦展の消費の倫理学が提起しているスタンスに惹かれるし、注目しているのであるけれども、同様の観点からユーウェンも再評価されるべきであると考えている。「広告。建築。写真。ファッション。映画。美術。音楽。政治―。街角で、家庭で、夢のなかで、細心に仕組まれたイメージがわたしたちを虜にする。商品が日常言語にとってかわり、人生はパッケージされた「スタイル」として売りだされる。はてしない欲望と消費の迷路と化した現代社会の本質とは何かを、新鮮な具体例と丹念な文化・社会史の分析から、鮮やかに読み解く、刺激的な1冊。」という『消費の政治学』の紹介文を見ても、再評価・再検討がなされなくてはならないと考える。それにしても、「スタイル」がパッケージとして売りに出される、という指摘は、いろいろな論考を書く際にもっと念頭におくべきであったと反省する。