土井隆義『人間失格?』

 土井隆義先生と言えば、最初のうちは、なぜか理由はわからないのですが、ゴフマン研究者というイメージでした。それが、犯罪社会学系でかなりのお仕事をし、さらに個性化、キャラ化といった鍵語で、非常に魅力ある論考を発表され、うちの学生にも非常によく読まれている著者であります。ゼミ志望書などにも、『友だち地獄』を読んで、社会心理系のゼミを志しました、などという学生が多く、うちの研究室にはご著作が三冊ずつくらい用意してあります。私自身が一番熟読したのは、『文化社会学への招待』掲載の高野悦子南条あやの日記比較で、その上になにか積み上げられないかを日夜考えていると言っても過言ではありません。
 その土井先生から本をいただき、ほんとうに恐縮しています。お礼のことばもありません。別に高名な先生でなくても、というより若手の人ならなおさらでしょうが、言っていただければ、必ず買います。というか、言われなくてもまいみくが編者の1人である『概念分析の社会学』は三冊も買ってしまいました。w 

[日販MARCより]
少年犯罪の原因を考え、その背後で社会が抱えている問題に迫る。さらに、少年犯罪の扱われ方を調べ、社会がどのような価値観から成り立ち、そこにどんな問題があるのかをあぶり出す。少年犯罪を考えるための必読書。


[BOOKデータベースより]
少年たちとのつながりの糸。あなたは紡ぎますか?それとも断ち切りますか?


プロローグ―「社会を映す鏡」としての少年犯罪;
第1章 白書統計から眺めた少年犯罪;
第2章 人間関係に縛られた少年たち;
第3章 成熟した社会のパラドクス;
第4章 保護の対象から責任の対象へ;
第5章 社会の病理から個人の病理へ;
第6章 不寛容な社会のパラドクス;
エピローグ―加害少年の「モンスター視」を超えて;
ブックガイド―少年犯罪の死角をなくすために
http://www.honya-town.co.jp/hst/HTdispatch?nips_cd=9986113822


 日本図書センターが、<どう考える?ニッポンの教育問題>シリーズを始めました。初回は、土井隆義さんの『人間失格?−「罪」を犯した少年と社会をつなぐ−』ともう一冊『教育問題はなぜまちがって語られるのか?』です。
 厳罰主義、処罰・報復が当然のような苛立った、攻撃的な感情が広がっている現代日本社会で、罪を犯した少年たちはそれで人生を閉ざされしまっていいのか?人としてつながり合うこと、人と社会の可能性への希望を土井さんはこの本で示してくれているように思います。
 このシリーズ、児美川孝一郎さん、滝川一廣さんも執筆されるようです。
http://blogs.yahoo.co.jp/doukyoukaken/59874178.html

 土井さんの著作は、統計的事実やドキュメント資料他の読解から始まり、それを理論的に掘り下げ、説得的な括り方をするところが最大の魅力だと思っています。その結果が、個性化、キャラ化、純度100%などのことばで、どちらかと言えば見かけよりもずっと理論的な色合いの強い業績だと思っています。
 今回の作品は、逸脱論の王道とも言える「排除する側」の論理を強靱に読みほどくものになっていて、刺激的です。作品性が一言で表現され、タイトルと副題でほぼ言い尽くされているのは見事です。ある学生に紹介したところ、非常に啓発されたようで、話し込んでしまい、気づくと持って行かれてしまいました。その学生は、心理系の科目で刑務官や調査官などのお話を聞くことに関心がある学生だな、と思っていましたが、少年犯罪ともなると、なかなか調査もできず主題設定に悩んでいました。ところがこのような発想転換を行えば、いろいろな調査研究の可能性が出てきます。そういう意味で、私にとって非常にありがたい本でした。というわけで、早速もう一冊買うつもりです。
 今日は学部長選挙で、他の会議も重なり、時間が分断されてしまうので、いただいた本のことを書きました。次は、昨日呟いた奥井智之さんの社会学史の本について書きたいと思います。