生卵と冷奴

 夏になると生卵がなつかしくなる。なぜかというと、私のアパートの寝室@岡山はめちゃめちゃ日当たりがよく、中途半端なカーテンしかなかったため、どうしても早起きしてしまう。そうするとすることもないから、大学に行って学食で定食を食べるのである。生協食堂になる前の昼と夜の定食は日替わりのおかずに飯の大小でAB二つの定食というものであったが、朝定食はちょっとちがって、飯の大小のみ2種類で、おかずは毎日同じものだった。生卵と菜っぱのお新香と切り昆布とみそ汁。しかしこれが馬鹿うまかった。と言ったら、さすがに米どころだけあって、朝日米の田植えに帰るような連中から、飯の味がわかっていないとクソバカにされた。生卵はこれといって特徴のないものだし、醤油もちょっとくたびれいたが、卵はすこぶる新鮮だったので美味しかったのではないかと思う。
 それまでは、生卵というものは、めったに食べることはなかった。カロリーが高くなることはわかっていても、炒り卵や目玉焼きや卵焼きにしてしまっていた。しかし、地鶏の店でめちゃめちゃ美味しい生卵を食べてからは、かなりはまって生卵のレシピを追求した時期がある。イイ卵以外になにがあるのかという人もいると思うし、本当に美味しい卵はたぶんどうやって喰っても美味いという理屈はわかる。生卵は器に割り、混ぜ混ぜして飯にかけるというようなしゃらくせえぇことを言わないでいきなりどんぶり飯に卵を割りのせ、そこに醤油をぶっかけるのが一番だという理屈もわかる。そして、地鶏の店でちょこざいな小細工をするのを見て、最初はてやんでえと思った。しかしである。喰ってみたら、やっぱり美味しいものは美味しいんである。その店の小細工というのは、薬味を添えるのである。薬味とは、生姜、細かく削ったかつお節、細かく刻んだあさつき(博多万能ネギ、青ネギ)、あと白ごまだったんじゃないか。理屈としては、臭みをとるということが一つと、出汁を加えるということがもう一つで、いろんなくふうが可能である。出汁醤油をつかうとか、あるいはいろんな薬味を工夫する。たとえばノリとか、あられとか・・・。で、学食で喰う時も生姜とか持っていって加えてみたら、メチャメチャ美味かった。
 夏はさすがに私もさっぱりしたものが喰いたくなる。でまあ話は冷や奴で、いろんな自慢冷や奴が各家庭にはあるのだと思う。刻みネギとかつお節と醤油と生姜というのは、生卵と同じ基本レシピだろうが、これもまあ臭み抜きと出汁というのが基本コンセプトだろう。で、ここにピータンを刻んでのせるとか、ゆで卵を醤油漬けにして刻んでのせるとか、そこにごま油ベースのタレを工夫するとか、まあそこに酒とかちょっとひねった調味料を加えてもいいんだろうけど、タレを工夫してあわせれば、非常に豪華なものになる。この前テレビでやっていたのは桜エビをごま油で炒りつけてのせるとか、そういうこともできるようだ。
 これもまた豆腐がうまきゃうまいんだろうね。京都の嵯峨野の近くだったと思うけど、豆腐屋でとうふ買って、店頭でプレーンを喰ったわけだが、それは別世界のもののようにンマかった。豆腐屋の名前も忘れちゃったけど、たぶん有名な店なんだと思う。あれを喰うのに薬味もへったくれもないと思うんだけど、それはそれで工夫をすれば美味いだろう。興味あるのはあれでピータン豆腐をつくったらどうなるんだろうということだ。おおかたの人は台無しだというだろうが、存外美味いのではないかと思っている。ぎゃあぎゃあ言うほどのレシピではなく、ごく当たり前のものだが、生卵の薬味のほうの話はけっこう知らない人も多いので書いてみますた。