『保昌正夫一巻本選集』(河出書房新社)ほか

 ともかく萌え萌えで購入して、人文書院恐るべしと思い、最後に文芸書のところにいってハケーンしたのがこの本。なんつーか、逝ってしまった小沢書店の出す本を手にとり、編集された内容から装丁まで、なんていいんだと萌え萌えになることがしばしばであったような人が、手にとれば速攻レジにもってゆくような本だと想う。なんと言っても題名がいいではないですか。買った本の合計が一万円超えそうだったけど、これだけでもう買うぞと決心しました。腰巻背表紙の「本が匂う気韻のエッセイ」というコピーは、実はちょっと萎えたけど、それも萌え萌えな自分が図星であったことへのちいさな反発かと思い、苦笑しますた。「横光利一、昭和文学研究の泰斗、無類の本好き、気韻に富むエッセイの名手保昌正夫の研究・随想を一巻に収める」ということで、目次は次の通り。

横光利一
横光利一とその周辺
作家の肖像
師友
本の話
私の周辺

 メインは申すまでもなく、横光利一なのでありますけど、長いのがきらいな私はとりあえず短いものをぺらぺらとめくり、年譜をみ、でもってレジに向かったのでありました。きーたふうなことをいえば、エッセイ群は、書き出しがすごいと思いますた。「作家、評論家の年譜を作ろうとするとき、まず戸籍謄本をとる」だの、センセーンとこに行ったら病床で辛そうだったとか、シュパンとネタふりがしてあって、思わずひきつけられる。文筆家や、書物への観察眼が独特のものがあり、かゆいところに届くように引用がなされている。しかし、川崎長太郎にはぶっとんだ。

女の胴中へかざ穴あけて
串をとほして
おでんの横喰ひ
うまたっけなあ小さな時の頬つぺたよ
おでんはどこへ行った
おでんよおでんやい、おでんやのおでんおでんおでんちあ
んや
故里は遠くだ
今は都会のほこりによごされてしまった俺の耳くそ
の奥の方に
それでも思い出す度しまってあるおでゞこでんちあ
んの・・・あたりやおでん
けふ日が日なら
女郎屋通ひに三両の金子
へへ、それも気儘にならなきやあ
女の胴に風穴あけて串さして
おでゞこでんちあんや
安い百文のおでんが
飢えにまつ白くなった歯肉が
へへへへ、地獄のようなげらげら笑み

 アナーキズムダダイズムに飛び火した「民情」が炸裂し、芸術院会員に叩きつけられた激情を描いた詩などは、教科書には絶対載ってないだろうし、凶暴なヲタク的な競争心がない者にはこんなものでも読まなければ、知ることが出来ないものであろうと思った。まあこのくらいのものは、2ちゃんにいくらでもころがっていそうではあるが。