藤本一司『カントの義務思想』

Inspiration is DEAD

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 藤本一司さんから本をいただいた。毎度毎度お気遣いいただきほんとうに恐縮しています。ありがとうございました。藤本さんと知遇を得た当初、ポストモダン思想にそれなりに洗練を受けてかぶれていた私は、義務や規範でがんじがらめになっている姿に、なんとも言えない「違和感」を感じていた。一方で、大衆論ととりくみながら、規範や義務の問題と対峙していたのだが、くらし、いのち、人生のことばで規範や義務を語られるときに、なんとも言えない「ズレ」をそこに見ようとしていた。しかし、もしかすると、そうした感覚は、一種の写し絵に対する自家中毒的な反応だったのかも知れない。それはもしかすると、とてつもなくひたむきだった自分、というふうに自分自身を正当化したいだけなのかもしれないけれども。
 教職を辞して、ヨーロッパを放浪していた藤本さんは、帰国後カントの倫理学ととり組み、丁寧に読みほどき、コツコツと論文を積み重ねてきた。他方で、自分自信の哲学をまとめた著作を二冊刊行されてきた。その折、やっぱり本業のほうも、キッチリオトシマエをつけて欲しい、と思っていたので、今回の著作は待望の一冊だと言える。

介護の倫理―贈与・身体・時間

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愉しく生きる技法―未知性・他者・贈与

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 藤本一司『介護の倫理』のことについては、このブログで何度か触れました。表現は一見難しいようでしたが、「介護とは何か」「人は何故このような困難な課題に立ち向かうことができるのか?」というテーマに対する解答が示されていると思いました。難しいと思ったのは、著者の専門は、カント哲学だったからです。素晴らしいと思ったのは、介護の問題を、認知症が進む著者のお母さんの介護と正面から向かった本だったからです。この本の著者のように徹底的に考えれば、介護を蔑視する社会的通念から飛躍することができる。大切な結論を生むには膨大な思索と作業が必要だ。・・・さて、その藤本先生の新刊『カントの義務思想』ですが、まだ、出版社のHPには、アップされていません。以下に、目次を書きます。

藤本一司『カントの義務思想』(北樹出版、2010.06.25初版第1刷)

(1989年から2005年にかけて書かれた論文を集成した。)


まえがき


序章 「通常の人間理性」への敬意
はじめに
1 出発点としての「通常の人間理性」
2 着地点としての「通常の人間理性」
3 「公表性」の原理と「通常の人間理性」
4 「通常の人間理性」の位置
5 ペシミズム、無関心の根拠と「通常の人間理性」への信頼


第1章 義務の概念
はじめに
1 「義務の最上の根拠」へ
2 「義務に適合して」と「義務に基づいて」
3 「行為の道徳的価値」
4 「負い目ある尊敬」


第2章 「意欲する(Wollen)と「為すべき(Sollen)」
はじめに
1 義務の起源へ
2 義務の起源としての原理
3 同一の意志における二つの意欲と「目的それ自体」
4 「目的の国」へ
5 「目的の国」から


第3章 自然支配と美
はじめに
1 美的判断力の地平
2 認識能力の自己「拘束」
3 「痕跡」としての美
4 美と「人間理性」の「運命」


第4章 理性をもつことの不適合と崇高
はじめに
1 「自然の崇高なもの」と理性
2 「美しいもの」からの追放
3 「現象」と「物自体」との分裂
4 悪への反転
5 「自由」の覚醒と「崇高の感情」


第5章 「義務思想」と「自惚れ」
はじめに
1 「道徳法則」と「格率」
2 「主体」の生起
3 意志の裂け目
4 「自惚れ」と裂け目
5 「性癖の意識」と「徳」
6 主体の烈開と「義務思想」


第6章 善い意志
はじめに
1 「善い意志」の善さの宙吊り
2 「善い意志の原理」の根拠
3 「自分」と「他のすべての理性的存在者」との峻別
4 単独者の極北(ich sage)
5 「創始者」と「世界の外」


あとがき
 今年中に「介護福祉の哲学―身体の復権−」(仮題)を書き上げたいが、こちらはレヴィナス入門ということになるだろう。p.199
http://blog.goo.ne.jp/bonn1979/e/912e31d8790db1f16caff7321a88f1e1

 この目次は、ある熱心な読者が書き起こしたものである。カントという古典を読みこなしながら、他方でレヴィナスという現代哲学とも向かい合っている。そして、自分なりのことばを練り上げ書きつける。このような執筆姿勢が、熱心な読者を獲得していることは、とてもうらやましく思える。このブログの著者は、岩清水日記というサイトで藤本さんの著作を知ったのだという。

今日は天気も良いので、愛車(サイク)で県立図書館まで行きました。


待っていた本が棚にありました。
「長島は語るー岡山県ハンセン病関係資料集・後編」貸出可が1冊ありました。
2009年 岡山県発行 A4版 800p
とても読める分量ではありませんので、眼についたところのみ読みたいと思います。
長島にある愛生園と光明園の,戦後を中心にした第一次資料です。


その他、注目したのは、
「介護の倫理ー贈与・身体・時間ー」藤本一司著 北樹出版
釧路在住。カントの研究者とのこと。


まえがきを読んで、引きこまれました。


「介護は愉しい」。楽しいというのは、「介護をしてあげる」という「贈与」の経験を通じて、人間として「生まれてきたことの意味」を「身に滲みて」感じることができるようになってきたからです。介護の経験は「人間であることとはどういうかとか」を私に教えてくれているように思います。


私が考えている「社会福祉の源流」のヒントになりそうに思います。
http://blog.goo.ne.jp/kokakuyuzo/e/101c3f4e7b3a12c08d824392db524abd

 公立図書館で大学、大学院の受験勉強をし、そして修士論文を書き上げ、さらに院生締めくくりの論文を書いた私は、こうした読書の風景についつい情緒的な気持ちになる。藤本さんの著作が、体験に基づいていて、そして特に介護や福祉の問題に重要な著作となっていることは言うまでもない。しかし、このような実践哲学は、現代社会の「生きづらさ」について、先駆的な立論をしてきたものとして読むこともできるように思った。