仲川秀樹『“おしゃれ”と“カワイイ”の社会学』

CHANGE/One

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 公務が忙しいので迷ったのだが、関東社会学会の修論フォーラムに行ってきた。お目当てはガバナンス概念を用いて、歌舞伎町の盛り場の調査をやった報告で、非常に興味深かった。統治的なオイコラ!系の議論と誤解されないように・・・などという意見が出ていたのは想定外で、はなっから「見逃してくれよ!」「見逃してやるよ」系の按配を熱かった議論であると思い込んでいた私は苦笑してしまった。
 公共空間におけるサブカルチャー的なものを論じる際にさまざまな概念的工夫がなされている。最近感心したものとしては、タネンバウムの『地下鉄のミュージシャン』などがあげられる。規範的内実について、精査され,貴重なモノグラフとなっている。用いているのは、ゴフマンの公論である。それにしても、分析は難しい。歌舞伎町研究を拝聴して、ガバナンスという問題の立て方は非常に上手いんではないかと思った。
 関東社会学会ではルーマンアレントを用いながらカオスを飲み込んだ新しい公共性論についてのテーマ部会などが構想されているようだ。そういう議論をみれば、山田真茂留さんが提起されたサブカルチャー的規範性の融解という問題に対しても,一定の対応が可能になるかも知れないと思った。しかし、毎日近くの楽器屋に憧れのギターを見に行っては金がなくてため息をして帰ってくる高校生と同じようにして、ルーマンなどの本を見てきた私にはやっぱり逡巡してしまうのであった。
 そういう議論を聞きながら、思い浮かべていたのは仲川秀樹さんの議論である。中川さんとは、学会で同じ部会になったおりに、ミードやブルーマーの公衆論、大衆論、集合行動論などを用いてサブカルチャー研究をすることの意味について,けっこう熱の入った議論をした。仲川さんが,都市のサブカルチャーについて「クライ」と形容し、もっと違うサブカルチャーを議論できないか、とおっしゃっていたことの意味は、その時はまったく理解できなかった。しかし、地方都市での地方アイドルと街づくりについての調査を始められ、最初の著作を公刊されたあたりから、やろうとされていることの意味が、ようやく理解されたような気になった。私も地方都市で調査を行っていたこともあるが、公共性とサブカルチャーの奇妙な調和がそこにはある。
 とまあ、こういうことを考えていたら、仲川さんから本が贈られてきた。ほんとうに恐縮した。ありがとうございます。

“おしゃれ”と“カワイイ”の社会学―酒田の街と都市の若者文化

“おしゃれ”と“カワイイ”の社会学―酒田の街と都市の若者文化

内容

メディア文化の街、酒田市をフィールドに、“おしゃれ”と“カワイイ”をテーマに掲げ、若者たちのファッションやトレンドの実態を探る。
高校生、大学生たちの声も取り入れ、映画『おくりびとアカデミー賞受賞やドラマロケの効果、若者の選ぶトレンドを多角的に検証。さらに地方都市の抱える課題に対応すべく新たな方向性も考える。
http://www.gakubunsha.com/cgi-local/search.cgi?id=book&isbn=978-4-7620-2092-6

目次

第1章 “おしゃれ”と“カワイイ”の社会学的視点
第2章 地方都市の“おしゃれ”と“カワイイ”を考える
第3章 酒田市内高校生八〇〇人に聴く“おしゃれ”と“カワイイ”
第4章 酒田の街で“おしゃれ”と“カワイイ”を探す
第5章 女子大生からみた酒田の街の“おしゃれ”と“カワイイ”
第6章 “おしゃれ”と“カワイイ”を語った一日
結び メディア文化の街はつづく

 仲川さんが集合行動を類型化したときに,ファッドやトレンドといった概念を精査し、細かく分類していたことを思い出す。そのことによって、地方都市の“おしゃれ”と“カワイイ”ははじめて表情豊かに描くことができるのかも知れない。仲川さんが,地方都市での調査研究を継続されている.。まことに貴重なご研究だと思っていたが、今回は800人の調査を踏まえた研究となっている。おりしも映画「おくりびと」がアカデミー賞を受賞したりして、タイムリーなご研究にもなっている。
 研究以上に頭が下がるのは、この時代に地方都市での調査実習をゼミ生といっしょに行っていることである。ゼミ合宿が学生によって熱心に行われ、予約を取るのがたいへんだった頃と異なり、今の大学生相手にこのような授業をするのは非常にすごいことだと思う。今後のさらなる成果に期待したい。