三浦展『「情報創造」の技術』 (光文社新書)

Sea loves you

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 三浦展氏から本をいただいた。ありがとうございました。
 ある問題状況があるとして、それを解決するためには、クリアカットする説明が必要になる。数学的な分析などの鮮やかな論理、緻密な実証、インパクトのあるデータなど、いろいろな説明がなされる。そうした説明の一つに、ストンと腑に落ちることばをくり出す方法がある。ケネス・バークはそうしたことばを「状況の速記用語」と呼んでいる。バークの言っているのは、おきまりのことばのほうだが、新しいことばを掘り起こすやりかたもあるだろう。
 三浦展氏の著作は、ひとつに、こうしたことばづくりを核とするものである、と私は考えてきた。学生時代に聞いたことばのほうが、あるいは切っ先が鋭く、あるいは艶のあるものだったようにも思う。しかしそのころは、文学的、あるいは学問的な純粋性に深く学んでいた頃の話で、ことばは習作的なものであったこともまたたしかだろう。「おいしい生活」「イメージを売る時代」というトレンドを創り出してきた三浦氏は、象徴分析の技芸を磨き、「新しい事業、新しい売上げ、新しい利益をもたらす」按配を見極めて、明確な作品性をもった言葉をくり出すようになった。艶、鋭さなどといった感覚的な部分は意図的に一端抹殺した上で、くり出すことばを集約することばとして、「情報創造」という地味な文言が選ばれていることも味わい深い。

「情報創造」の技術 (光文社新書)

「情報創造」の技術 (光文社新書)

「新商品を開発するのも、マーケティング調査の質問票をつくるのも、広告のコンセプトメーキングをするのも情報創造です。さらに言えば、自分の会社の経営理念を考えるのも、自分の部署の事業や事業理念を考えるのも情報創造です。ビジネスのいろいろな局面で情報創造は必須なのです。(略)新しい事業、新しい売上げ、新しい利益をもたらすものが情報創造なのです」(「序」より)
 なぜ著者は「下流社会」「ファスト風土」など数多くのキーワードを生み出し、30年間も時代を予測し続けられるのか? 企画の立て方、調査の方法、アウトプットの技法などを初公開。


【目次】
序 情報創造力がないと生き残れない!
1 「まねない力」で生き残れ!
2 どんどん仮説を出そう
3 情報創造はビジネスにとってますます重要 ほか


1章 情報創造はなぜ必要か?
1 パワポづくりで無駄な残業をしていませんか?
2 ちゃんと文章を書いて論理的に考えるべき
3 パソコンに使われてはいけない ほか


2章 情報創造の方法
1 情報受信するには知識と好き嫌いが必要
2 いろいろなことを知っておこう
3 知識を身につけるには、いろいろな人に会え! ほか


3章 情報の収集と整理
1 脳を刺激する自由で楽しい仕事場づくり
2 デスクの配置
3 朝型の方が効率的 ほか


4章 情報創造の事例
【仮説の立て方1】オリジナルなデータをつくる
事例1 ニセ団塊ジュニア真性団塊ジュニア:世間の通説を疑って新しい世代像をつくる
事例2 Hanako OL:価値観の変化の基礎には分母となる人口の変化がある
事例3 新人類世代:どこで生まれたのかが価値観に影響 ほか

上記目次書き出しを含む詳細な紹介ブログ

http://smoothfoxxx.livedoor.biz/archives/51821770.html

 こうしてみてみると、消費社会の原基的構造を見極め、いろいろな仕事がなされていることが改めて確認される。いわば消費の文法についての明確な識見に基づいて、売ることの創造を行い、こあな読者層=顧客たちに対するミニマムな責任を果たしているわけだが、その底にしっかりとした教養知があることは、リベラルアーツ教育を標榜する大学にある人間としては、非常に興味深いものがあった。