外山滋比古『思考の整理学』

 なんかゼミで上手く勉強できないという人にすすめる本はないかなと思って、思いついたのが、この本である。「もっと若い時に読んでいれば」というキャッチコピーによっておっさん層をタゲっていた外山しげひこのこの本は、「東大生が一番読んだ本」という第二のキャッチコピーを獲得したもようである。これでまたすごく売れるんじゃないかと思う。

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

書店のキャッチコピー その1

“もっと若い時に読んでいれば…” 松本大介さん(盛岡市 さわや書店)
そう思わずにはいられませんでした。何かを産み出すことに近道はありませんが、最短距離を行く指針となり得る本です。

内容

アイディアが軽やかに離陸し、思考がのびのびと大空を駆けるには?自らの体験に則し、独自の思考のエッセンスを明快に開陳する、恰好の入門書。

目次

グライダー
不幸な逆説
朝飯前
醗酵
寝させる
カクテル
エディターシップ
触媒
アナロジー
セレンディピティ
情報の“メタ”化
スクラップ
カード・ノート
つんどく法
手帖とノート
メタ・ノート
整理
忘却のさまざま
時の試錬
すてる
とにかく書いてみる
テーマと題名
ホメテヤラネバ
しゃべる
談笑の間
垣根を越えて
三上・三中
知恵
ことわざの世界
第一次的表現
既知・未知
拡散と収斂
コンピューター
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480020475/<<

 この人の本は、昔けっこう読んだ。本屋で手に取ってみて、なんとなく読んだ記憶がある。昔この本を読んだからだろうと思ったのだが、出版は86年である。もう就職していたし、そのころは、この手のものは呉智英の民主シャチョーの本(『古今百バカ』??)とかくらいしかよんでいなかったはずだ。知的方法の本、呉智英ふうに省略すると、チホー本を私がよく読んでいたのは、大学生時代で、私がよく読んでいたのはたぶん『知的創造のヒント』講談社現代新書 1977 なんだろうと思う。
 整理というのは、野口悠紀夫の「超整理法」でもなんでもいっしょだが、捨てる技術であるということは、自分の机の上や部屋をみてみてもよくわかる。この本を読みながらよく思い浮かべたのは、「投げたらあかん」でいろいろ「投げた」w草魂=鈴木啓示とかの投球論で、ピッチングの前日に精密に翌日のシミュレーションを行うが、翌日はきれいに忘れるという話だ。
 本を読んで、がんじがらめになったら、何も書けない。ゼミでもそうだよね。本を読んでレジュメをまとめて、横に置いて、なかば読み上げるように報告をする人がいるが、それはまあ、一番創造的ではない。アドリブをきかせるばかりがのうではなく、キッチリミスなくやるなら、文章化したようやくをつくってきて、読むならまだわかる。あるいは、台本想定問答集でもいいだろう。
 私がこの人のいったことで一番覚えているのはここでも何回も書いた積ん読のこと。買って読まないで、積んでおく、置いておくことに、学部生のころは内心忸怩たるものがあった。時間がない、読解力がない、知識がない。そんなときに読んだのが、積ん読論で、要するに、積ん読上等、積ん読悪くない。いや、むしろ(・∀・)イイ!!。そういう議論である。威風堂々積んでおく。ただここでポイントは、本の背表紙をみて、タイトルを時々眺めること。いい題名だよなぁ。みたいに惚れ込む。で、なかみをいろいろ想像する。こんなことが書いてあるんだろうな、あんなことが書いてあるんだろうな。みたいな。で、10年もして本をひろげると、その本より自分の思考のほうがずっとイケていることを発見して、ウキウキになる。
 私は、これだ!と思いましたね。別になかみをみてはいけないということもないんだろうな、とも思った。目次をみる。鳥瞰図を書いた部分をみる。思い入れたっぷりのあとがきを見る。別に全部読んで悪いことはない。でも、全部→各節→各章→目次→タイトルと逆にたどって、いい本だよなぁ・・・と惚れ込んで忘れる。
 「大切なことはノートしない」「つまんないことだけノートする」というのも、まあなんとなくわかってくる。読みほどけたことは、単純にできるし、あとは寝かせる。読みほどけない=つまんないことだけノートする。なるほど、みたいな。
 ただし、これは良くも悪くも20年前の本である。当時私の講義を聴いた大学1年生の何人かは、マルクスウェーバーの古典を通読して、授業内容を批判するようなレポートを提出した。知識の習得ばかりが講義の目的ではなかった。今は、そうでもない授業もたくさんある。テキストもかなり標準化されてきた。知の規範、知の品格というものも、ずいぶん変わってきた。穴埋め、サブノート、例題方式、マンガで学ぶ・・・、などという社会科学テキストも少なくない。棄てたら何も残らない時代になっているのかもしれないから、仕様には十分注意みたいに思う。
 社会学に限定すると、批判も多いだろうが、『創造の方法学』がロングセラーだろうと思う。

創造の方法学 (講談社現代新書)

創造の方法学 (講談社現代新書)