伊藤守編著『よくわかるメディア・スタディーズ』

 大学に来たら、伊藤守さんからメディア・スタディーズのテキストが届いていた。たいへん恐縮するとともに、ご厚情感謝いたします。ありがとうございました。「よくわかる」というのは、ミネルヴァから出ているシリーズで、エビゾリで読め!という「ブリッジブック」シリーズほどのインパクトはないものの、その分野の多くの研究者が若手、中堅から大御所まで結集して執筆している。
 文化やメディア・スタディーズの本というと、どちらかというとテキストなんかあまり読まないよ、といわんばかりの人たちが、それぞれ唯我独尊の方法に基づき、ザックリとエッジの立った立論がなされていて、テキストテキストした本は嫌いだというような人間が読むと、実に面白いものの、教室で使うと、あまり評判がよくないことが多い。大事なことがどこかわからない、なにを勉強したらよいかわからない、読んだけどいったいなにを自分は勉強したんだろうか、などという批判は、授業評価などでもよくみかけていて、反省することが多い。
 この本はそういう不満を見透かすかのようにして、本の目標をきっちり定め、学ぶべきことを明示し、そしてゼミ論や卒論を書くにはどうしたらよいか、ということをよくわかるように書いてある。
 執筆陣も、それぞれの分野の第一人者から、若手の俊秀まで、「テキストテキストしたテキストなんか嫌いだ」という人の欲求をも十分満たすような陣容となっている。赤江達也、阿部潔、有元健、五十嵐泰正、石田佐恵子、伊藤昌亮、伊藤守、岩渕功一、岡井崇之、小笠原博毅、小川明子、篭島真之介、加島卓、島谷昌幸、北澤裕、後藤嘉宏、小林杏、小林宏一、小林直毅、小林義寛、是永論、佐幸信介、柴田邦臣、清水知子、杉山あかし、鈴木慎一郎、田中東子、田仲康博、谷川建司、辻大介土屋礼子、土橋臣吾、中村秀之、鳴海弘至、難波功士、橋本良明、長谷川一、長谷正人、花田達朗、林香里、原克、原宏之、平塚千尋、藤田真文、別府三奈子、堀口剛、松浦さと子、水越伸毛利嘉孝、山口誠、山本敦久、若林幹夫。
 儀礼的にいうのではなく、本当に思ったことだが、ゼミのテキストはすでに決めているのだが、これは使ってみたいなぁと思い出している。下手な感想を書くより、とりあえず目次を書き抜いた方が善いかと思い、やってみた。

内容

 デジタル化・グローバル化といわれる現代的な変化を視野に入れながら、メディアの歴史・社会構造・表象文化といった「メディア・スタディーズ」の特徴の輪郭を解説。問題にアプローチしていく際の考え方や研究方法を提示する。

目次

はじめに
Ⅰ メディア・スタディーズの輪郭
1 メディアをめぐる知の生成
2 メディア・スタディーズとは
3 メディアの媒介性
研究事例1 メディアと宗教


Ⅱ メディアの物質性・歴史性
1 メディアの物質性:研究の方法1
2 メディアの歴史性:研究の方法2
3 メディアの系譜学:研究の方法3
4 サウンドと身体的パフォーマンス:乗せられているのか、乗っているのか
5 声の文化:「声」と「文字」の連動から見えるメディア文化
6 文字の文化、写本の文化
7 印刷文化
研究事例2 岩波文庫を読むことの歴史
8 視覚メディア
9 写真というメディア
10 ラジオというメディア:「放送メディアの原型」の現在形
11 映画というメディア
12 テレビというメディア
13 アニメというメディア:興味を持たれながらも研究の少ないメディア
14 インターネット
研究事例3 写真を撮る/見るということ:メキシコ・死児の写真の事例から


Ⅲ メディア社会の構造
1 メディアへの政治経済学的アプローチ;研究の方法4
2 メディア社会を数量的に解き明かす:研究の方法5
3 新聞・雑誌の産業と読者
4 映画産業の変化と観客
5 テレビ産業の特徴とオーディエンス
6 サブカルチャーのエコノミー:マンガ、アニメ、ファン・カルチャー
7 インターネットとネット文化
研究事例4 メディアと社会運動(のようなもの)
8 グローバル・メディア
9 ネットワーク社会
10 メディア社会の公共圏
11 監視社会
研究事例5 空間管理の社会学:セキュリティと現代社


Ⅳ グローバル化と文化の移動
1 グローバルな研究視点とは:研究の方法6
2 グローバル化多文化主義の現在:研究の方法7
3 グローバル化の多層性
4 文化の移動と再文脈化
5 グローバル化における国家の役割
研究事例6 文化政策
6 東アジアをめぐる文化のグローバル化(1):韓国
7 東アジアをめぐる文化のグローバル化(2):中国/香港・台湾・上海
8 ディアスポラの公共圏:居場所喪失の経験が繋ぐもの
研究事例7 移民たちのグローバルネットワークとメディア


Ⅴ メディアの表象文化
1 テクスト分析、言説分析の視点:研究の方法8
2 オーディエンス、ユーザー研究の方法:研究の方法9
3 他者の表象
4 メディアとナショナリズム:ナショナルな空間の編成
研究事例8 スポーツと身体、メディア:サッカーの事例
5 メディアと記憶
6 フェミニスト・メディア学の現在:Talking gURLS
7 セレブリティの両義性とその神話
8 ポピュラーサイエンスの神話
研究事例9 ニュースのマルチモダリティ分析


Ⅵ 空間を編成するメディア
1 なぜ空間的アプローチなのか?:研究の方法10
2 文化の地政学:研究の方法11
研究事例10 ライヒス・アウトバーンの表象機能
3 メディアスケープと家庭
4 インターネットとコミュニティ
5 ケータイがつくるメディア空間
6 メディア集積体としての都市
7 ストリート文化とメディア
8 ファッション雑誌、身体実践、都市空間
9 広告の空間論
研究事例11 <広告制作者>を書く


Ⅶ メディア公共圏のデザイン
1 ジャーナリズム研究の条件:研究の方法12
2 メディア・リテラシー 研究の方法13
3 ジャーナリズムの実践
4 映像とジャーナリズム
研究事例12 オルタナティブなニュース発信:当事者の視点と現場のまなざし
5 世論と政治
6 パブリック・アクセス:市民放送の成立と展開
7 アーカイブの公共性
8 福祉支援のネットワークと公共性
9 市民のメディア表現のネットワーク
10 サブカルチャーと新しいメディア
研究事例13 イギリスのデジタルストーリー実践から


理論・研究者紹介
1 コミュニケーションの2段階の流れ
2 沈黙のらせんとアジェンダ・セッティング
3 エンコード/ディコード
4 メディオロジー
5 メディア・イベント
6 ヴァルター・ベンヤミン
7 戸坂潤
8 中井正一
9 テオドール・アドルノ
10 マーシャル・マクルーハン
11 ロラン・バルト
12 鶴見俊輔
13 ジル・ドゥルーズ
14 ニクラス・ルーマン
15 ユルゲン・ハーバーマス
16 ポール・ヴィリリオ
17 フリードリッヒ・キットラー
18 ジョナサン・クレーリー
さくいん

 「はじめに」には、本書の編集方針がわかりやすく書かれている。編者の述べるところを、かいつまんで紹介しておきたい。
 まず第一には、「研究対象の拡がり」を考慮していること。「デジタル化」「グローバル化」という核となる趨勢を明示し、拡がりを体系的に整理してゆく手がかりを与えている。 第二に、多様な方法をカバーしているということ。方法的拡がりも相当なものだが、目次立てに沿って、方法のピボットを示すことで、飽きの来ないものになっている。
 第三に、「考え方」「問いの出し方」、そして方法の組み立て方(自分なりの方法を組み立てるにはどうしたらよいか)を示していること。「お勉強」でない、エッジの効いた勉強が可能なようにしたこと。
 作品制作者としての読者を想定し、制作のプロセスをサポートするような本とするため、上記のような構成を取っていること。
よく考えてみると、ゼミでどう使うんだろうね。ローマ数字に沿って2回ずつでやると、半期で終わるかたちになる。まあしかし、自習用のテキストというか、事典的に利用する手もある。教師用のテキスト=先トラ(先生用の虎の巻)みたいなのがあると、たすかるけど、まあ商品価値ないだろうしね。まあ、それは教師の責任ということでしょうか。