金曜日に非常勤に行くときに、吉祥寺駅地下の本屋で新書や保守系週刊誌などを買い、読むのは、毎週の日課になっている。今日はかなり早く出たので、少し本屋を物色していたら、佐伯一麦が『芥川賞を取らなかった名作たち』という新書本を出していた。この人の作品は、『ア・ルースボーイ』を読んで以来、出るとかならず買う。とりあえず私小説だとか風俗小説と言われるようなものは、なるべく読もうと思っているということもあるが、この人のものは作品として・・・なんというか・・・どう考えても痛くない、からだ。これはすごいことなんじゃないかと思う。
目次をめくったら、島田雅彦も出てくるし、なんかメッタ斬り??と思ったんだが、市民講座みたいなのでやった、本を読む講座をまとめたもののようで、最初の一章をシャラッと立ち読みしたら、読み方や講座の人たちとの討論がとてもおもしろかった。手に持っていた吉見俊哉の「ポスト戦後史」の新書本は研究費で買うことにして棚に戻し、こちらをすぐさま買った。
- 作者: 佐伯一麦
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2009/01/13
- メディア: 新書
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詳細
第一回芥川賞選評で、「生活の乱れ」を指摘された太宰治。
受賞の連絡を受け、到着した会場で落選を知らされた吉村昭。
実名モデル小説を「興味本位で不純」と評された萩原葉子…。
「私小説を生きる作家」として良質な文学を世に問い続ける著者が、芥川賞を逃した名作について、その魅力を解き明かす。
上の「詳細」にある紹介文自体が芥川賞みたいな機能を果たしていて、これって趣向なのかな?と思ったけど、やっぱ本屋さんは売ってなんぼでしょうから、などと思ったりもした。
自分でなにかを書いてみようかと思ったこともあるが、書けないのはなぜかということがわかったような気になった。文学を読む場合、自分の必要のために読んだり、読んだといいたいために読んだりと、ろくな読み方をしていなかったからじゃないかというか、書けるほど読めた作品がないというか、読み方の姿勢がまちがっているというか、・・・いろんなことが頭をかすめる。各章を読んでいると、いろんな書くためのアイディアがわいてくる感じがする。そのためにさっそく本屋に行っていろんな文学を買ってきて読んでみようという気になる。
で、売り出すみたいなこともまた違うことなんだろう。そんな意味で、北條民雄と島田雅彦の章は二度読んだ。あとやはり自意識にとらわれる者としては、太宰治の章も二度読んだ。
じゃあ専門書はどうなんだろう、と思ったが、これは間違いなく書くために読んでいると思う。ただあまり売れる努力はしていないし、またその能力もないのかもしれないとも思った。などという、ふやけた言いぐさに対して、佐伯一麦の作品は激辛の刺激になる。地方大学にいる正真正銘のホンモノの碩学の怖さみたい、というか。