東谷護編『拡散する音楽文化をどうとらえるか』

 いただいたもう一冊がこの本である。三浦氏とともに、東谷護氏にお礼を申し上げなくてはならない。というか、こちらの本にはマイミクのお二人も書かれていて、そちらにお礼申し上げるべきか、そちらにもなのかは、判じがたい。また成城大学の非常勤にうかがっていて、東谷さんや阿部さんの研究室の前はよく通る。ぐだぐだな講義申し訳ありませんと、お詫びするところでもあろう。議論としては、「音楽未来派野郎」他で展開されている議論を細分化して、展開しているカンジ。いずれにしても、ポピュラー音楽学会幹部の方々の執筆ということで、幽霊会員としては襟を正して勉強させていただくというべきところであろう。
 青少年研究会とはまた別の学風だが、ここも中堅の活躍がめざましく、文化研究に一石を投じる有力なグループである。非常に積極的に成果が公刊されているし、また研究活動などもさかんな感じである。

拡散する音楽文化をどうとらえるか (双書音楽文化の現在)

拡散する音楽文化をどうとらえるか (双書音楽文化の現在)

内容

 音楽と聴衆の媒介作用“メディエーション”に焦点をあてるポピュラー音楽研究の新潮流。文化の生成・消費のあり方に地殻変動をもたらしたデジタル技術は、音楽文化の何を変えたのか。環境の変容に着目した研究を集成しポピュラー文化の現在に見取り図を示すシリーズ第1巻。

目次

1 ポピュラー音楽の“いま”をどうとらえるか
「音楽のデジタル化」がもたらすもの 増田聡
ポピュラー音楽とネットワーク 木本怜一
現代社会における音楽産業と消費者としての聴衆―アドルノを手がかりに 阿部勘一
正統な音楽・非正統な音楽―文化政策の公的承認機能 宮本直美
2 ポピュラー音楽の“過去”とどう対峙するか
グローバル化にみるポピュラー音楽 東谷護
音楽言説空間の変容―価値増幅装置としての活字メディア 南田勝也
「演歌」の誕生―「主流」と「対抗文化」の交差点として 輪島裕介
ポピュラー音楽の“リ”サイクル―「甲子園」を読み直す 周東美材
コラム ポピュラー音楽の体験と場所
        ――もしくはローカルアイデンティティ 大山昌彦

シリーズ 音楽文化の現在

第2巻 木本怜一『グローバリゼーションと音楽文化――日本のラップ・ミュージック』
第3巻 井手口彰典『ネットワーク・ミュージッキング――「参照」の時代の音楽と文化』

非常に面白い本である。私の歌への関心は、見田宗介社会心理学的な著作との関連だけなのであるが、その現在形を考えるような手がかりがたくさんある。少なくとも今は、歌詞分析などは意味がない、と言えるのだろう、などとまあ考えてみるとYMOとかがずっとまえにゆっていたことなんかを思い出す。ただいつも思うし、言ってきたのだが、この議論をする場合、なぜマクルーハンやグールドに一貫して言及しないのかということが疑問だ。今回も『メディア論』に言及があるだけで、『メディアの法則』への言及はない。また、ジャンルがちがうのかもしれないが、宮澤淳一さんの訳業やあるいはグールド論などは一切触れられていない。あんまり関係ないということなのか、あるいはなんでも関係するなどというのは素人の戯言ということなのか、いつかこっそりでも教わりたいものである。もちろんべつにだから問題だというつもりはさらさらないのであるが。