『平成女子図鑑』

 学会が終わり大学の郵便棚を見たら三浦展氏から、本が届いていた。かまやつ女に加筆したものだ。いつも恐縮でございます。ありがとうございました。東北大学の学会で俗流若者論批判の後藤和智さんの勇姿(今日来てます、というフリに、ピョコンと手を挙げたパフォーマンスがキュートだった)をみたあとであり、ちょっと若者に媚びてみたくなる今日この頃であったのであるが、どうにも思考力が牛のようにというか、恐竜のようにというか、昔で言う蛍光灯みたいなもので、ぐだぐだでのろいことこの上ないもので、いまだに鬱鬱と反芻しているもので、「おまえに資格はねぇ」って怒鳴られルンんじゃないかとオドオドしながら本をめくっているもので、三浦氏が今回加筆してあるところなんかにもくっきり表れている、戦略的にして、確信犯な「おやぢ面」みたいなものが、ガチッと撃ち出してあることに、あわわわわ、と思いつつ、こう書かないとやっぱりだめなのかなぁと、若手研究者の学会報告のエッジのたたせ具合がぬるくね?、などと書いていた自分のぬるさに赤面する。
 なんか、闘争心も、向上心もない、かまやつ学者だといわれているようなきになる本である。ただまあ、向く方向性の違いだと言いたい気もする。みんなが留学志向の世界標準のミリオネーゼ学者めざすなら、こちとらサバティカルをとれたら夜間高校への内地留学を考えているんだと言ってみたくもなるが、そのぬぐいがたい自分の上から目線に吐き気がしたりする。若者を論じたり、対策を考えたりということに、距離をおくようになったのは、そんなこともあるのかなぁ、などと思ってみたりもした。
 まあしかし、かまやつ女もそこそこオサレでしょ。定番ブランドとかあるわけだし。私がここ数年聞き取りをやってきた男女他は、着たきりのジーパンにジーンズメイトかなんかの500円くらいのシャツみたいなのばかりだったし。昔、良知力が、ドイツでガスとアルバイターに間違えられたと、おー自慢しているのをみたことがある。私のしたり顔は、あのくらい筋金入りのものでありうるだろうか?
 それはともかくである。

平成女子図鑑―格差時代の変容 (中公文庫)

平成女子図鑑―格差時代の変容 (中公文庫)

 二十歳前後の女性を、かまやつ女系、ギャル系、お嫁系、ミリオネーゼ系の四つに分け、ファッションを中心に、よく読む雑誌、学歴、結婚等の多様な観点から、それぞれの特徴と格差を徹底研究。


第1章 かまやつ女と階層社会
第2章 現代女性の分類学
第3章 かまやつ女にいら立つ大人たち
第4章 女らしさは自分らしくない
第5章 楽ちん主義でしかない自分らしさ志向に明日はない!
補論 かまやつ女の上流化
資料編 データで見る「女女格差」


20歳前後の女性を、かまやつ女系、ギャル系、お嫁系、ミリオネーゼ系に分け、現代の日本では、その格差が広がりつつあると主張する。

1227758554*解説:小倉千加子

 あいかわらず三浦氏の論理は――下流社会以来――一貫している。消費の倫理の確立みたいなことだろうと思う。楽ちんじゃダメ!でも、刻苦勉励努力して労働せよとは言わねぇよ。ちゃんと消費せよ!みたいなこと。理解者面だけは絶対にしないという覚悟が、非常にさわやかに思えるのは、私がディバイドにがんじがらめになったおやぢだからかもしれない。私弱いものの味方です、みたいなことを言わないで考えている。まあしかし、そういうところは、グッと飲み込んで、あとがきに至ると、娘がかまやつ女になっちまいましてね、と言っている。
 解説者の解説は、まいみくのトリックフィッシュさんも言及していたが、なかなか面白いズラしかたをしているように思った。「組織におさまりきらない」。昔、大塚英志が、宮田登に院なんか来ないで評論でやっていけと言われたみたいな話を聞いたことがある。そして、最近、恩師Sさん(つまりは三浦氏の恩師でもある)の側近中の側近の人から、Sさんが三浦氏に批評、評論で行くべき、行く方が大成する人だと言ったということを聞いて驚いた。知らなかった。三浦氏は、言われたとは言わないだろうし、記憶にないのかもしれない。しかし、恩師はそういうふうに位置づけ、側近の人たちには――まだ『アクロス』の編集長になる前から――そう話していたことはたしかなようだ。それはともかく、「組織におさまりきらない」というのは、小倉千加子なりに「ものわかり悪い」スタンスから、「ものわかり悪い」内容のことを、「ものわかり悪い面しているおやぢ」に言いつつ、問題を混ぜ返し、かつ突破口を示していたンだろうな、と思った。
 たぶん70年代に生きたぼくら若者は、「俺たちの旅」が好きで、イルカのファッションが好きで、CFの宮崎美子の田舎くささが好きで、市民活動をするすっぴんのアグネスチャンが好きで、のちに「かけがえのない、大したことのない私」と言うことになる田中美津のリブが好きで、要するにかまやつ女(違うと言われると思うけど、大差はないと思う・・・)が好きで、でも、そういうものが好きな自分たちの上から目線の偽善、独善におびえてオドオド生きて、73年以前の闘志たちに「テメーらがぬるいから、大学の学費が上がるんだよ、速攻ゼネストだろ」とか怒鳴られながらも、「何か」を生み出していたンじゃないかと思う。シンポで小谷敏さんの言いたかったことも、そんなことなんだろうなぁと思う。