三浦展『女はなぜキャバクラ嬢になりたいのか?』

 小悪魔アゲハな姫ちゃんについて日記を書いた翌日に、大学に行ったら、三浦展氏の新著が届いていた。題名は、『女はなぜキャバクラ嬢になりたいのか?――「承認されたい自分」の時代』である。いつもありがとうございます。その前に三浦氏から、「お恥ずかしい次第」という主旨のメールをいただいていて、「132pの図と文章」に誤植があるというのでみてみたら、一見してわかる誤植であるが、一つの便宜として一言した次第。

女はなぜキャバクラ嬢になりたいのか? (光文社新書)

女はなぜキャバクラ嬢になりたいのか? (光文社新書)

 若い女性の20%がキャバクラ嬢になりたいと思っている。あなたの娘も部下も、キャバクラ嬢? 全国規模のアンケート調査と50人のキャバクラ嬢およびその予備軍へのインタビューを通して、現代日本の女子たちの意識に迫る。

 個人的には、聞き取り調査の部分は非常に面白かったのと、タイトルを始め、コピー化はエッジが立っていて、ガツンとくるものが多い。社会調査のデータとしては、いろいろな意見があるとは思うが、イメージマーケティングをベースとした研究のユーザーのニーズを考えれば、非常に使い勝手はよろしいのではないかと思う。あと、用語集は興味深かった。ネットサイトのホスト用語集というのは知っていたが、キャバの用語集というのはほかにはあるんだろうか。オラギャルが一番ビックリした。オラオラ系というのは、どっちかというとゲイ用語かと思っていたから。日焼け、金のネックレス、短髪、スパンキングみたいな。w
 本の主旨は以下のようなかんじ。バブルが崩壊して、男は頼りにならなり、自活せにゃあかん。しかーし、高校出てもたいした職はない。そこで、キャバですよ。という、現実に迫るということである。「これは下流社会の事例研究である」。そうまえがきに書いてある。腰巻きには、「格差の拡大、ジェンダーフリー、離婚の増加など、多様な社会背景から若者の価値観の大転換を探る。キャバクラ嬢から日本の将来が見える!」とある。本書の成り立ちは、下記のブログエントリーや毎日の記事に詳しい。

ブログエントリーより

 産経と毎日によると,『キャバクラ嬢になりたいという女性が急増中』であるとのこと。根拠は消費社会研究家 三浦展(あつし)氏の著書「日本溶解論」の中で,15歳~22歳の若者にアンケートをとった結果「キャバクラ嬢になりたいという女性が急増中」であることが分かり,記事にしているようだ。(対象は男女だが,結果は女性中心に語られているような気がする)
 1位が歌手,美容師が7位,ここら辺はなんとなくうなずける。公務員は18位,看護師は22位というのは「少ないんだ」という印象。それに対しキャバクラ嬢・ホステスは,なんと公務員や看護師を抜いて9位である。書店へ行けばキャバクラ嬢や元ホステスが書いたといわれる自己啓発本・恋愛本がズラリと並ぶ。いわゆる水商売。我々の年代からはどことなく口にするのもはばかれる印象があるのだが・・・ちなみにキャバクラなるところはいったこともない。調べて見ると,キャバレー以上クラブ未満といったところなのかな。飲みに行くのは居酒屋程度で,クラブなどというところは高そうでいけない。スナックでさえ,「これ飲んでいい?」などといわれると断ることもできないし,いやな感じがしてしまう。しかし,お金がある人にとっては楽しい遊び場所であるらしいし,今の若い女性には抵抗はないようだ。
「可愛いって感じがします」「きれいってイメージはありますね」
「メイクがしてもらえるから,きれいになれそうじゃない」
「お金がもらえる」「時給が高額」
「1回なりたいと思ったことがある。ただドレス着たいだけやけど,みたいな・・・」
「社会勉強で一回だけやったら,行ってみたいかも・・・」
「興味ありますね。人生経験にはなると思うから」
今や,一部の女性には「憧れの存在」となっているようだ。少なくとも話している様子では抵抗感はない。
 三浦展氏によると「キャバ嬢が主演のドラマとかバラエティの影響で,おしゃれで楽しい仕事ってイメージが強くなったんだと思います」「より中・長期的な理由としては,まあそれしか仕事がないんだろうという状況がある」「キャバクラ嬢になりたい子というのはOLになりたい子とかなりカブっています。ところがOLっていいう職業が今,正社員ではないんですね」だから「ファッションを楽しむ→OLは非正規で稼ぎが少ない→キャバクラで働きたい」という図式が出来上がってくる。
 現在キャバクラ嬢になっている人は
「お小遣い稼ぎ」
「友だちが働いててすごいキレイやったんですよ。それで,私もキレイになりたい,それでですかね」
「お金ですね。OLになりたい気分は今でもあります。今はなれない!」
「自分の力だけで,女・男関係なく上に立てるのは・・・(これしかない?)」
「お客様に合わせて,喋り方を変えたり,顔を変えたりしていくんで,何か女優さん気分です」
「昼にメリットを感じられないようになった。やっぱお金が全然違うじゃないですか。で夜に戻っちゃうんですよね」
「本当に自分の目標さえあれば,(キャバクラで働くことには)賛成も反対もないってとこですね」
 三浦氏は「15歳から22歳の世代を『ジェネレーションZ』*と命名し,それ以前の社会の価値観が完全に「溶解」した不思議な世代だという。「一つにはバブル崩壊後の日本しか知らないということですね」「お父さんがリストラされた」「お兄さんがフリーターで30歳になったみたいな経験をしてます」「もう一つの特徴は,彼らはジェンダーフリー教育をかなり受けてきていて,その影響が強い」「『がさつ』とか『気が強い』とか,本来は男子的と思われる性格が,女子の方で顕著である」「ジェンダーフリー的な社会で育ってきていますので,女らしさとか,男らしさというそういう価値観が彼らの中では溶解している」
 このキャバクラ嬢に「ジェンダーフリー」のことを聞くと「ジェンダー?」「デンダ-?」とさっぱり分かっていない。彼女たちは今までの価値観と自分たちが受けてきた価値観の違いが分からない。それだけジェンダーフリーが普通に受け入れられているという見方もできるかもしれない。
 まあ,キャバクラ嬢であることにさして抵抗もなく,そこへ通う大人がたくさんいることも事実であり,そういう風俗営業を公的に許可しているのも事実なのである。東京では場所によっては,一流大学といわれる女子大生がキャバクラ嬢になり,学生証も見せてくれるという。そして企業のお偉いさんたちが客としてくる。それが女子大生にとっては就職活動の一つでもあるらしいのだ。でも,企業のお偉いさんたちはキャバクラへ来るの?行くならクラブでしょう?風俗で就職活動ね?不思議な世界である。金美鈴さんがうまく説明しておられた。「昔は水商売と堅気はちゃんと境界があった。それが今はボーダレスになったのよ」「どっちでも行き来できるし,それを認める人が大多数になってしまった」まさにその境が溶解しているのだ。しかし「額に汗して働くことが尊いんだということを説かなくてはいけない」という。これは説いて分かるものなのだろうか。宮崎氏は「キャバクラが暴力団と関係していたり,客の借金を背負わされたりという,暗い部分があるということを,知らされていないところが怖いところだ」という。線が見えないというのは,そういう影の部分が情報発信されていないということだが,そこがまさにボーダーレスになっている。ジェンダー教育は性の垣根を取り払い,風俗は金(と権力)で堅気と水商売の垣根を取り払ってきた。そして,溶解した今日の社会を作ってきたのだ。これは家庭と学校もそうかもしれない。携帯・インターネットがその一役をかってきたのかもしれないなあ。(7/13 読売TV そこまで言って委員会
(注)ジェネレーションX,Y,Zは三浦展氏の説。ジェネレーションXが1970年代前半生まれ,ジェネレーションYが70年代後半生まれの世代を指し,団塊世代(狭義には1947~49年生まれ)の子どもを多く含む世代である。ジェネレーションZ世代の親はブランド好き、高級品好きな新人類世代(1960~68年生まれ)であり,その子どもがジェネレーションZ世代になる。X,Yより10~15歳ほど若いことになる。団塊世代の子どもよりひと回り若いと考えればいいかな。Z世代はバブル期に生まれ,バブル崩壊期に学校へ通いだした。高校時代には9.11同時テロやアフガン戦争,池田小学校事件などが,バーチャルではなく現実のものとしてTVで放送された。ある意味団塊ジュニアと同じく,不安定な社会に放り出された世代である。日本溶解論 「はじめに」はNETにも公開されているが,面白い。社会的背景との関連がうまく説明されており,ここだけでも一読の価値はあると思う。
http://pub.ne.jp/newjei/?entry_id=1528617

毎日記事

なりたい仕事:キャバ嬢・ホステスが9位 不安定でも高給 若い女性の職業観とは(下)

 「キャバクラ嬢になりたい若者が増えたからといって、たるんでいるとか、性意識が緩いとかいう問題ではない。社会が生み出しているんです」と三浦さんは指摘する。「長期的要因としては、60年代から続く性意識の解放と、その日楽しければいいという現状享楽志向が土壌にある」


 この傾向を後押ししたのがバブルの崩壊だ。「雇用環境が悪化し、正社員にはなれない。まして、多くの女の子が望むおしゃれなOLの仕事など、地方ではほとんどない。唯一、求人が増えているのは福祉の仕事だが、厳しい割には給料が安い。雇用環境が悪いので辞める人も多い」


 「しかし一方で、Z世代は上の世代である団塊ジュニアが、正社員になれず苦労している姿や、リストラされた親たちを見て育った。フリーターやニートはよくないという意識がかなりある。しかし、男性や会社、社会には頼れないと察知し、将来に向け計画的に生きていかなければならないと気づいたわけです」


 安定して給料のいい正社員の口はなく、安定しているが給料の安い仕事はきつい。不安定で給料の安いフリーターやニートはダメ−−ということで、行き着いた先が「不安定だが給料のいい仕事=キャバクラ嬢」なのだという。


 いきなりキャバクラ嬢とは飛び過ぎの感もあるが、三浦さんは、ドラマにもなった漫画「女帝」の影響や、キャバクラ嬢が登場する雑誌や選曲したCDが売れていることなどを挙げ「キャバクラ嬢がライフスタイルのモデルになっている」と分析する。


 テレビや雑誌でちやほやされることで、「かっこいい」「美人のあかし」などというイメージができ、敷居を低くしている面もあるようだ。


 一方で、三浦さんは「ファストフードなどで働く感覚でやっているつもりでも、はまってしまって結局、風俗嬢になった子もいる」とも話す。



 水商売から華麗なる転身を図った先駆けとも言えるのが「銀座小悪魔日記」(宙出版)や「女子アゲ↑」(徳間書店)などの著書が人気の作家、蝶々(ちょうちょう)さん。昼はOL、夜は銀座の高級クラブホステスとして働いた経験から「日銭は稼げるし派手だし、夜の世界には魔力がある。若いときには魅入られ、流されるのも分かる気がするし、ちょっとのぞいてみるのも悪いことではないと思う」と話す。


 「でも」と蝶々さん。「とびっきり気が強くて根性が決まってないとやっていけない。昼間の世界よりある意味厳しい世界。本業にするのは絶対に勧めません。お店を持たせてあげるとか、月30万円の手当をあげるとか甘い言葉に乗った揚げ句、相手の会社の倒産で生活できなくなってホステスに逆戻りしたり、客の支払いを肩代わりして借金を背負ったり、悲惨な例もたくさん見てきましたから」


 それでも働くのなら「何のためにここにいるのか、といつも自分に問いかけることが必要」と話す。目的をはっきりする▽店や客のいいなりにならない強い意志や冷静な頭を持つ▽金銭感覚や価値観を保つ▽客と寝ないなど自分なりの基準を持つ−−ことが、夜の世界に捕らわれない秘訣(ひけつ)だと蝶々さんは力説する。


 夜の蝶になるのも決して甘くはない。
http://mainichi.jp/sp/job/topics/archive/news/2008/06/20080618mog00m100014000c.html

しかし、いろいろ今年は、12冊目らしい。旧知の活躍をみると、いい学生時代をおくったんだなぁ、といつも思う。