ずいぶん前に、うちで兼任講師として社会調査法を担当していただいている阿部真大先生に訳書をいただいた。恐縮するとともに、お礼が遅れましたことお詫び申し上げます。阿部先生は、言わずとしれた「バイク便ライダー」の人で、授業も学生たちに好評を得ている。一連の著作とも深く関わるこんどの本の著者はフィッツジェラルド、著作名は『キャリアラダーとは何か――アメリカにおける地域と企業の戦略転換』。副題、目次を見れば、欠いてあることがシュタッとわかる優れた知性によって書かれた本だと思う。「新自由主義の国」のなかでも、カリフォルニア的なボランタリズムなどとはまた別に、論ずるべき土俵があるのだなぁということを再認識させられる、というのは、私の勉強不足の証明みたいで情けない限りだ。社会運動というようなことではなく、キャリアラダーという切り口が示されているのは、とても今日的だと思った。
キャリアラダーとは何か―アメリカにおける地域と企業の戦略転換
- 作者: J.フィッツジェラルド,筒井美紀,阿部真大,居郷至伸
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2008/09/10
- メディア: 単行本
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こういう本を読むと、社会学の大事さみたいなものを再認識し、また萎えかかっていた気持ちがシャキッとする気がする。キャリア形成とかエンパワーメントとか言っても、結局はなんかちがうんぢゃね?みたいなところに、ワープア研究が出て、まあそれもわかるが、絶望どん底プアの生き血の上に立ってネット難民やっても、なんかなぁと思ったりするし、街で「マッサージどおですか?」みたいに声をかけられるたびにこの人たちはいくら借金を背負って日本に来たかとか、いつまでこのポジションにいられるかとか、どこに売られていくのかとか、どこまでおちていくのかとか、いつまで腎臓は二つあるのかとか、考え込んでしまう。というか、こんなことを言うこと自体が、恥知らずだと、昔なら活動家の人たちとかに一喝されたところだと思う。
しかしである、一方で詳細な調査の結果を読み、他方で役者たちがつけた論点提起によって、「キャリアラダー戦略」というものが批判的に検討されていることをみると、こういう仕事をこつこつやることが大事なんだなぁと、再認識する。もちろん、どうだとばかりに花火を打ち上げる言論人は、臨床的な意味では必要だと思うし、政策提言において旗振り役も必要だと思っている。しかし、本筋は、丁寧に調査をして調べ上げ、分析をし、知見を概念化することだなぁと、しみじみと思う。今年講義をお願いできたのは、同僚のA先生の提言によるものだが、有意義なことだったと改めて思う。くり返しになるが、お礼申し上げたい。ありがとうございました。