加藤哲郎・国廣敏文編『グローバル化時代の政治学』

 帰宅したら小澤亘さんから本が届いていた。小澤さんの同僚@Ritzだった中谷義和先生の退職記念論集であった。小澤さんは、経済学部の塩野谷祐一ゼミで公共経済学を学んだあと就職し、その後社会学部に学士入学し、大学院社会学研究科の田中浩ゼミでルソーの政治思想について研究を行い、DTB大学で助手をされ、『思想』に論考を発表されるなどし、京都に職を得た。そのあとは、文化装置を基本的な視点とし、阪神大震災とボランティアについて調査したり、さらには科研費でカナダや韓国との比較研究をしたりと、本格的な研究を続けている。

グローバル化時代の政治学

グローバル化時代の政治学

内容

 グローバル化時代の政治学に課せられた課題である新たな民主主義的パースペクティヴを権力関係の変容や新たな主体形成など最新の政治動向や理論を踏まえ追究する。民主主義やガヴァナンス、協労や連帯などのこれからのあり方を模索する。

目次

はしがき
第一部 グローバル化と政治理論
ネグリ=ハート〈帝国〉と〈マルチチュード〉再論 田口富久治
グローバル・サウスから民主主義を再考する
 ―参加型ローカル・ガヴァナンスの制度構築 松下冽
フーコーにおける非近代という「近代」
 ―フーコーグローバル化 渡辺俊
第二部 グローバル化と政治動向
グローバル・デモクラシーの可能性
 ―世界社会フォーラムと「差異の解放」「対等の連鎖」 加藤哲郎
グローバル市場における権力関係
 ―「規制帝国」の闘争 鈴木一人
ワークフェアの伝播と対抗戦略 宮本太郎
第三部 グローバル化の中のローカルな政治動向
フランス都市コミューンにおける熟議=参加デモクラシーの実践
 ―近隣民主主義法(二〇〇二年)施行後のアミアン市における住民合議制を事例として
 中田晋自
市民教育とボランティア 小澤亘
戦争の克服と「和解・平和・共生」
 ―ヴェトナムにおける枯れ葉剤被害をめぐって 藤本博
あとがき
http://www.hou-bun.co.jp/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03094-8

 この論文は、前著の震災ボランティア研究を踏まえながら、科研の研究成果の中間報告をしたかたちになっている。福祉経済の理論から、ロールズハイエクなどの価値理念研究、さらにはシュンペーター研究へと移行していく時期の塩野谷先生に学んだ小澤さんは、たしかアローやなにやかにやを元にして、非常に大きな表現の卒業論文を書いて、先生の頬をひくつかせ、紅潮させ、経済学部を卒業されたと記憶している。しかし、社会学部再入学後はその辺の知識はほぼ封印したかたちでルソー研究を発表し、他方でボランティアの調査ととり組んでこられた。今回の論考では、引き続き比較社会学的な観点から調査結果を淡々と論じているようでもある。しかし、「政府」「市場」という二大セクターに対峙するものとしての、「ボランタリーセクター(市民社会セクター)」について問題にするという視点が提示されていることは、封印をいつ解くのかを期待していた私のようなものには非常に興味深い。
 社会調査の講義で知遇を得て、毎日のように生協前でカップコーヒーを飲みながら、雑談をした。物静かな人ではあるが、浮ついた読書でものを語ったりするとしっかり反論される。丁寧にごまかしなく本を読んでいる怖い人である。不条理なまでの撃墜王と言われた鈴木秀勇のルソー講義に最後までついていき、「あれは勉強になった」とさらっと言っているのだから、半端じゃないことだけはたしかだろう。
 グローバル化は私たちが今度改組する新学科でも重要な鍵語となる。十分に勉強させていただきたいと思う。