倉地克直・沢山美果子編『働くこととジェンダー』

 今日からいよいよ新年度の公務の開始です。いろいろ仕事をして小平の藤の木にメシを喰いに行き、帰りはもちろん歩き。軽装で行ったので、コートで着ぶくれしていた時とは比較にならない歩行速度で、二時間ほどで吉祥寺に着いた。それから3000メートル泳ぐ。軽装なのに汗びっしょりで、これから夏になったら着替えやなにやらが必要だなぁと実感。一番お気に入りのウォーキングシューズに穴があきそうになっていた。やはりマサイ族の靴を買うか迷っている。帰ったら、岡大の総合講義の本が届いていた。

働くこととジェンダー (SEKAISHISO SEMINAR)

働くこととジェンダー (SEKAISHISO SEMINAR)

内容

人々はどのように働き、生きてきたのか。そして豊かなあしたを築く働き方とは――古代から現代まで、長い歴史のなかの様々な営みに学びながら、社会の諸関係に介在するジェンダーの視点に立って、「働くこと」の現在と未来を考える講義録。

目次

目次
開講にあたって  倉地克直
第1講 働くことの風景  倉地克直
第2講 憲法に見る働くこと  中富公一
第3講 人類史のなかの働くこと  新納 泉
第4講 歴史のなかの子どもの労働――古代・中世の子どもの生活史序説  今津勝紀
第5講 働くことの発見――中世から近世へ  倉地克直
第6講 働く身体と産む身体――近世から近代へ  沢山美果子
第7講 ライフスタイルと働くこと――おんなの戦後史  沢山美果子
第8講 国際比較から見た男女雇用機会均等法  藤内和公
第9講 働くことと生きること――オランダの事例に見る「ワーク・ライフ・バランス」  中谷文美
第10講 働く女性の現場から  青木須賀子
あした働く君たちへ――まとめの講義  倉地克直
学生との対話  沢山美果子
引用・参考文献/あとがき

倉地さん、沢山さん、中富さん、青木さんからの献本である。ありがとうございました。編集者はボクらの本と同じ大道玲子さん。あとがきに「大道さんは、いつも私たちの講義の成り行きを心配してくれていて、ときどき水を向けてくれます。講義録にまとめることをしばらく前から三人で打ち合わせていましたが、主に私たちの事情で二年ほど遅れました」と編者が書いていらっしゃるのが目にとまった。「主に」ではないものの、私どもの著作は、二年遅れたことにまちがいなく影響しているはずだ。申し訳なく思います。
 前にも話したことだが、岡山大学で「女性論と男性論」という講義をはじまったのが、約20年前のことである。倉地さん、沢山さん、青木さん、他大に転出されたA氏らととのに、私もプロジェクトに関わっていた。実は、その頃誕生されたA氏のお子さんがうちの大学に入学することになり、明日の入学式で久々に再会する。時代の流れを感じる。私が関わっていたときには、テキトーに全学にアポナシで依頼状を送り、医学(内科、精神科)、家庭科教育から、人文社会全領域の人間がこの指止まれでやっていた。適当にゲストスピーカーを呼んだり、読んでもいないのにゲストスピーカーになっちゃう人がいたりと、まあそれはそれで楽しかった。
 世界思想社のプロジェクトがはじまった時から、倉地さんと、沢山さんが、女性史という筋道をキッチリとつけて、アカデミックな体裁の成果が出た。その後、成果を続々と出版し、今回が三冊目というのだからすごいことである。
 今回はそういう基礎の上に、社会科学的な講義も盛り込まれている。「働くこと」という鍵語を核として、今時の若い人々にとり重要な主題をあつかっている。以前の講義では間奏曲的な講師となっていた青木さんも、実務家として重要なパーツを分担し、論考を本に書かれることになっていて、興味深かった。
 本書の意義は、次のような言葉に集約されているように思う。「この本の成立に一番貢献してくれたのは、毎年の受講生諸君です。彼ら・彼女らの反応(居眠りを含めて)やレポートに学びながら、ここまで来ました」。沢山さんが、毎回のコメントペーパーを丹念に読み、丁寧に再編集したプリントを配布しながら、講義をすすめていたのを思い出す。最後にある「学生との対話」という章は、そうした努力の積み重ねのごく一端であることを考えて読むと、味わい深い。
 そして他の章もまた違った味わいに思えてくる。言うまでもなく著者たちはそれぞれの分野でよく知られた研究者である。そういう人々が、「働くこと」をめぐり丹念な「対話」の努力を重ねていらっしゃることに表敬したい。