三浦展・上野千鶴子『消費社会から格差社会へ』

 連休真ん中に授業日が二日続いた。むかしなら、休講にしないのかと、しつこく学生にせがまれたりしたものである。気の弱いまじめな先生は、「学生にせがまれてやむにやまれず」と実直に理由を書き、休講届けを出したりした。なぜそんなことを知っているかというと、うちの大学はまじめな大学ではあるが、そういうエピソードをユーモラスに教授会で報告するような面白いところもあるのである。今は、授業料も高いし、また休講も厳しくなっているので、そういうことはまず考えられない。で、大学に来たら、三浦展氏よりまたまた新著が送られていた。

内容

 トレンド化した「下流社会」から、男が嫌いなスカートの下のパンツ、自己実現のタコツボ化、マイホームからホームレスへ、おうち系「負け犬女」対「下流男」まで、消費から格差へ移行する社会の歪みを語り下ろす。

目次

第1部 消費社会・格差社会
 『下流社会』診断
 女子校文化と女性格差
 八〇年代消費社会の禍根
 少子化問題と子育て教育
第2部 団塊世代団塊ジュニア・ポスト団塊ジュニア
 団塊男世代のゆくえ
 団塊ジュニアはマイホーム主義の失敗作か、傑作か
 ポスト団塊ジュニア(Hanakoジュニア)の病理
第3部 企業・個人史
 パルコ個人史・三浦展
 セゾングループとパルコ

 マーケティングを生業にしていたかもしれない社会学者=上野千鶴子社会学を生業にしていたかもしれないイメージ・マーケティングのパイオニア三浦展の対談という趣向であるわけだが、組み合わせだけみても思わず手に取ってみたくなる一冊だと思う。上野千鶴子が、『アクロス』や三浦展に、早くから注目していたというのは、外交辞令などではなく、事実である。三浦氏が、まだ若い頃ごく少数の会員限定で公開していた個人誌があり、それが仕事の苗床のようになっていたわけだが、上野氏は、この個人誌を『思想の科学』によせた文章でとりあげ、「発行部数はわずかだが、影響力は大きい」という趣旨のことをのべていたからである。
 三浦展の消費の倫理学上野千鶴子がどのように斬り込んでいるかは興味津々だったし、バトルモードだったら萌え萌えぢゃんかとか思いながらめくったのだけれども、斬り合うというよりは、話がふっくらとふくらんでいったいる感じがした。三浦氏の仕事については、同業者のなかではよくわかっているつもりでいたのだが、そうでもないことに気づいた。なんというか・・・三浦氏の仕事を社会学者にもわかりやすく解説してもらっているという感じがした。あとがきで、上野氏が「社会学的想像力」ということばをくりかえされているのが印象的だった。
 私は、個人史ネタが好きなので、第3部はめちゃめちゃ面白かった。三浦氏の大学時代のことなども語られている。私と三浦氏が音信不通だった卒業から『超大衆の時代』までの時代のことなどもわかって非常に面白かった。これにかぶせて、上野氏のバイト時代のことなども語られている。