『信頼社会のゆくえ』

 諸事そっちのけで、何度目かの草稿の仕上げにかかっている。と同時にそろそろ来年度の講義も気になってきている。4月病がちなほうなので、いろいろ準備したいのだけど、なかなかままならない。大学の郵便受けに、山田真茂留さんから本が届いていた。ほんとうに恐縮です。まだめくった程度ですが、考えたことを書いてみます。
 本は、社会意識論の分野のもので、国際的な調査プロジェクトの一つの成果報告ともなっている。社会学的な社会心理学の分野でまたひとつ重要な業績が生み出されたことを感じた。テキストとしても使ってみたい感じである。ゼミで一章ずつ読むのがいいか、調査実習準備段階のモノグラフ多読に用いるかは、ちょっと悩ましい(うちの大学は、ゼミに調査実習が併設されていて、2時間ぶっ続けでやるのである)。ちなみに、全員が社会調査士取得済みである。文化のほうではグローバル化と文化を論じた遠藤薫本も出て、問題意識的には吉見佐藤本より面白そうな気もするし、なんか今年はいつになくテキスト選びに苦労している。

信頼社会のゆくえ―価値観調査に見る日本人の自画像 (リベラ・シリーズ)

信頼社会のゆくえ―価値観調査に見る日本人の自画像 (リベラ・シリーズ)

内容

日本社会も21世紀に入り、政治・経済・社会・文化あらゆる領域において、大きな転換期を迎えています。そでは今日、日本人の価値意識はいったいどのようになっているのでしょうか。日本人や日本社会についてはこれまで数多くの議論がなされてきましたが、この本では実際に普通の人々が抱く社会意識をもとに、人々の信頼、宗教の見方、家族のかたち、労働の意識、モラルのゆくえなど、さまざまな問題にアプローチしていきます。

目次

第1章 日本的価値の諸相――ゆらぐ信頼社会 山田真茂留
第2章 宗教意識の多様性――日本人の信仰世界 永井美紀子
第3章 結婚と家族に関する価値意識――性別・就労形態による差異 藤本哲史
第4章 労働意識の現在――不況下における仕事観 フェリベ・ムンカダ
第5章 政治意識と道徳観――保守化時代の日本人 ロバート・キサラ

目次をみてもわかるように、総論からはじまって、文化=宗教、社会=家族・結婚、経済=労働・仕事、政治=政治と道徳と論が進められている。 とてもきれいな構成だ。信頼社会のゆらぎの実態を、人間が生きる基本的な枠組について論じ、「保守化」の問題にまで論じいたっている。浅野本と組み合わせて、概論にはどうか?と思ったが、エッジの立った専門的な論の運びであり、低学年ではちょっとむずかしいかもしれないと思ったが、どうだろうか。