ハーヴェイ『新自由主義』

 ミルズ論の仕事をすすめている中村好孝氏より、endnote の手ほどきを受ける。科研費で購入し、研究関連文献の整理を進めるためのソフトである。収集したあとの本を整理するのはなんだけど、購入前にデータを取り込み、タグをつけたり、一行メモをつけたりは、たやすくできそうだ。問題は二つ。一つは、日本の図書館で対応しているところが少ないこと。いろいろな機関で「使ってる?」みたいな調査はくるが、まだまだだ。利用者が増えれば、かなり有力なツールとして発展してゆく期待はある。もう一つは、ワードを使っている人には、論文のなかに文献を書き込んでいくだけで、リストがシュルシュルできてしまうということがあるが、一太郎だとだめっぽいということだ。この点は、なんとかして欲しいよな。でも、マイナーだからだめだっつぅんだけどね。中村氏は。で、その中村氏から、本をいただいた。氏は共訳者の1人である。

BOOKデータベースより
いかにして世界は、再編されているのか?21世紀世界を支配するに至った新自由主義の30年の政治経済的過程とその構造的メカニズムを世界的権威が初めて明らかにする。


新自由主義―その歴史的展開と現在

新自由主義―その歴史的展開と現在

目次:
第1章 自由とはこういうこと…
第2章 同意の形成
第3章 新自由主義国家
第4章 地理的不均等発展
第5章 「中国的特色のある」新自由主義
第6章 審判を受ける新自由主義
第7章 自由の展望
付録 日本の新自由主義―ハーヴェイ『新自由主義』に寄せて(渡辺治


MARCデータベースより
いかにして世界は再編されているのか? 新自由主義はどのように発生したのか? 21世紀世界を支配するに至った新自由主義の30年の政治経済的過程とその構造的メカニズムを、世界的権威が初めて明らかにする。
http://books.livedoor.com/item_detail&author_index=1&isbn=4861821061.html

原典と読み比べてみると、表紙の機知などもよくわかる。それ以上に、非常にスマートにできあがっている本である。索引や文献表の丁寧さなどを見ると、翻訳のチームがしっかりした仕事をしたことがわかる。監修者の渡辺治氏が、論文一本分くらいの丁寧な論考をよせている。とってつけたような解説文とは違い、これで分厚くなり、定価が高くなったんじゃないかというくらいのものである。しかし、さらにこれに加え、非常にマニアックな訳注がものすごい勢いでついていたらしいのだ。これは非常にもったいないことだ。法政大学出版とかなら、採算度外視で、2巻本くらいにして、訳注歌舞伎まくりだったんだろうが、今回の出版形式を断腸の思いで選択したことで、多くの人が読むのではないだろうか。
 こういう本を手に取ってみると、自分の受けてきた教育というものをなつかしくふりかえることができる。社会科学を学ぶと言うことは、華麗な思想用語を繰り出す技術を身につけるということとは別に、政治経済学的な評論や書物を読み、大月書店などから出ている『講座現代日本』などの類の書物を読み、現在のイデオロギー状況についてガチで考えるというようなことであったのかもしれないなぁなどと思う。この本には、ネオリベみたいなカタカナ書きは似合わない。狭くなった地球で、少なくなったパイを、昔ながらの列強と、新参者たちが、情け容赦なく奪い合うことになったときに、現状をはかなくも、なんとか生きている間は保ちうるような競争のマジックについて、ラディカルに、グローバルに考えるきっかけになるような気がした。気のせいかもしれないけれども。ダニエル・ベルのような立場の人の怜悧で聡明な現状分析が、トンデモな結論へとむかうことがままあるのと呼応するがごとく、シャビーなものとならざるを得ない「終章」のタイトルに私たちは黙って耐えなくてはならない。しかし、データーベースの「世界的権威」という文言だけはどうにかならねぇものかね。