Radical Nomad

 大学に来たら、トム・ヘイドゥンの新著が丸善から届いていた。トム・ヘイドゥンと言えば、若くしてアメリカのラディカル運動をになったSDSのリーダーで、ポート・ヒューロン宣言を共同執筆したことで知られる。高橋徹先生が『思想』や『世界』に寄稿した論文にその足跡は詳細に記されている。女優ジェーン・フォンダと結婚したことや、カリフォルニア州上院議員になったことでも知られている。社会運動論的にも重要な仕事をいろいろしてきていることもあらためて言うまでもないかもしれない。tyadonさんたちの研究会で、有園真代さんの報告を聴き、あらゆる社会運動は「こぼれ」を生み出すという指摘を聞いたときに、ミルズからヘイドゥンをみること、ヘイドゥンからミルズをみること、「68年」という視点の歴史的意義を考察することのヒントを得たように思った。ヘイドゥンの軌跡が、なによりも雄弁にそれを実証している。その歩みのはじめもはじめ、ポートヒューロン宣言の直後に書かれたのが、ヘイドゥンの博士論文“Radical Nomad: C.Wright Mills and His Times”が本邦初公開で出版された。アナーバーのミシガン大学に提出されたものである。

Radical Nomad

Radical Nomad


Hayden cogently traces Mills’s scholarship and his progressive activism to the events and thinkers of earlier generations. Ideas in major books by Mills (The Power Elite, New Men of Power, White Collar, Character and Social Structure, The Sociological Imagination) can now be better understood in light of the influences on Mills during and before his time, including the impact of two world wars, the Great Depression and the New Deal, the failures of the Soviet state, and changing relations between workers and industry in America and worldwide. The book thus brings us a new and much more complete understanding of Mills’s political theories and philosophy.
(裏表紙より)

 この論文は、ミルズの歩みについて考察したものである。現在では、テキサス大学のベイカー・テキサス歴史センターに書簡や草稿類も整理され、それを用いた詳細な研究も出されている。ホロヴィッツ、ティルマンらの大著、ミルズの親族もかかわって出版された書簡草稿集がとりわけ有名だが、先駆的仕事をしたのはむしろギラムである。ギラムは、最後の妻であったユラスロヴァ・ミルズが所蔵していた一次資料を60年代にいち早く参照し、コロンビア大学修士論文を提出した。その後資料の整理を行い、テキサス寄贈にも貢献があったはずである。グールドナーを中心とした『理論と社会』誌他に論文をいろいろ書いていたが、著作には結実していない。こうしたギラムの研究と比較すると、ヘイドゥンの研究はいささかあらっぽい。しかし、社会の矛盾と対峙しする運動のなかで書かれたこの論文は、今日的意義をもつ鋭い視点で書かれている。ノマディズム的な視点に逢着し、「よりどころのない立場」という「特恵的地点」にあぐらをかいた批判を再検討する手がかりをこの著作から得ることができるように思う。
 しかし、やられた。次にミルズの本を出すときには、表紙に絶対使いたいと思っていた写真がある。この本にはもろ使ってありました。ヘイドゥンのよいところは、英語が平明に書かれているところである。この点がホロビッツと大違いなところだと思う。フラックスとアロノヴィッツの解説付き。また詳細な索引も付いている。
 ギラムの修士論文は、私が修士一年の時コロンビア大学の図書館から複写を取り寄せた。ヘイドゥンの博士論文は、前にも言ったように高橋徹先生からお借りして読んだ。そんなわけで、こんなものがでちゃって若干むかつかないこともないのだけど、やっぱりうれしい気持のほうが大きい。そして、ミルズの書物を手に取るたびに初心を思い出して新鮮な気持ちになる。検索するとヘイドゥンはここのところたくさん本を出していることがわかり、不勉強を恥じた。アイルランドや環境問題についても論じているようだ。ブリューワーと動員史観、そして私の初発の問題意識としての環境問題など、いろいろなものが一つのからくり模様のように整合性をもって見えてくるような気がするが、まあそれは幻想なんだろうね。w