『若者たちのコミュニケーション・サバイバル』

 青少年研究会の代表が藤村正之氏になったと聞いた。彼は学部の後輩、大学院入学時は同輩w、一年在籍ののち初志貫徹で院を受けなおして、移っていかれた。大学院での一年間は、リンドの『ミドルタウン』を通読するゼミ他でいっしょだった。受講者は私と藤村氏のみ。報告は隔週である。まだ翻訳のなかった時代で、かなり大きい辞書を引かないとわからないような単語も出てくると同時に、該博な社会学的知識がないと歯が立たない本で、四苦八苦しながら読んだ。こちらが七転八倒して読んで行くと、藤村氏は実にクリアカットなレジュメをつくってくる。だから猛烈に頑張った。一年でこの本を英語で通読したのは、かなりの勉学成果だと思う。藤村氏は、新睦人氏が学会誌に書かれていた「センターを守る」ということばを引き、理論と調査のバランスのよい社会学者を志していると語っていた。他大の院に受かったあとの春休み、図書館であった彼はコントを読んでいた。「こういうのは今のうちに読んでおかないともう読めなくなるかも知れないから」と語っていた。青少年研究会の数々の成果を目の当たりにするたびに、藤村氏が語っていた「センターを守る」ということば、そしてそのことばに込められたオーソドックスな理論と調査に基づいた学問姿勢を思い出す。
 入試業務などの公務も一段落で大学の郵便棚をみると辻泉さん、岩田考さんからということで、『若者たちのコミュニケーション・サバイバル』が届いていた・・・などと普通書くところだが、一週間くらい前に礼状を辻さんに送ったわけで、この日記の嘘八百がまたもや確認されることになる。岩田さんとは、宮台真司本の合評会が青少年研究会で会ったときにお会いした。めずらしく飲み会に行った。岩田さんたちは、ベロベロに飲んだくれて学問の話をしていた。「最近出た中西新太郎さんの本はかなり面白かった」という一言からはじまった若者論の方向性をめぐる議論は非常に刺激的だったし、中西本の成功を予言するような内容だったと思う。議論に勝つというのではなく、問題を考え抜いて、深めてゆくようなカンジがして、敬意を覚えた。浅野智彦「わかる」本の話などもした(実は、「わかる」本を来年度の概論前期のテキスト指定しますた)。さて、肝心の今回の本である。前にここで紹介した、浅野智彦編の若者本と同様、青少年研究会で行った調査を元にした論考が集められている。あのあと、dice-xさんが、友情あふれる批判的なコメントをブログに書かれている。構成はクリアーで、目次を読めばおおよその内容はつかめるだろう。

若者たちのコミュニケーション・サバイバル―親密さのゆくえ

若者たちのコミュニケーション・サバイバル―親密さのゆくえ

目次

目次
第1部 若者たちの現在
第1章 多元化する自己のコミュニケーション
第2章 「自由市場化」する友人関係

  • 友人関係の総合的アプローチに向けて- 辻泉

第2部 若者たちの生き残り戦略
第3章 なぜあなたは身体を変えたいの?
第4章 ひきこもる若者たちの自己防衛戦略 石川良子
第3部 親密な他者としての恋人・家族
第5章 青年の恋愛アノミー 羽渕一代
第6章 脱青年期と親子関係 苫米地伸
第4部 メディアと親密性の変容
第7章 メディア・コミュニケーションにおける親密な関係の築き方―パソコン通信
第8章 インターネット社会の恋愛関係

  • 「複合現実社会」における親密性と匿名性―富田英典

columnIV 新 どっちの要因ショー

  • 経済的に成功するための重要な条件とは?-ハマジ・マツアリーノ・Jr

[日販MARCより]

メディア環境の激変は、若者たちに高水準のコミュケーション・スキルを求めているか。1992年と2002年の比較調査データをもとに、現代の若者の友人・親・恋人との親密性の有り様を観察分析する。


 
 調査結果を利用しながら、若者の諸相をいくつかの切断面から、くっきり描き出している。本筋のコメントは、またdice-x さんほかから出されるのではないかと思うので、どうでもいいことばかり書くことになるが、ご海容いただきたい。まずやっぱ、目次を見てひときわ目を惹くのは、ハマジ・マツアリーノ・Jr でしょ。『反社会学』かむあうとキターか???だいたい「こっち方面」あやしすぎるよなぁ・・・と思ったら、けれんみたっぷりに名前の由来などが書いてある。「ッ」「ァ」が入力できないとか、Jr がジュニアじゃなくジェーアールとか。ハマジはなんなんだよ、ごるぁああとか思うわけで。w おやぢぎゃぐ、顔文字、パロディパスティッシュ・・・勇気あると思う。普通はこう言うのは、編集者にゴリゴリ直されて、イタチのさいごっぺのように未練タップリに末尾に数行そえるものだが、どうどうとやっちゃっている。四年ゼミのテキストにもってこいの本だが、この章だけは真似しないように指導したいと思う。
 これから研究会で報告なので、一章にだけコメント。それは身体改造の章。昨年度私のゼミで、身体改造社会学について卒論を書いたのが二人いる。一人は心理学化だとかの関連で書き、「きれい」の社会学というタイトルをつけた。もう一人は、整形、ピアス、身体改造、タトゥと歌舞伎まくり,BME系のサイトなども精査しながら、デュルケムの儀礼論、奥村隆の儀礼論などと照らし合わせながら、立論を行った。二人とも調査を行い、「ピアスをしてますか」「いくつしてますか」「どこにしてますか」みたいな調査票で、どう指導したものかと頭を抱えたが、真摯な調査を実施し、そちらで一定の成功をおさめ、よい評価となった。しかし、若者論的にはどう考えたらよいのか?奥村氏のデュルケムとゴフマンという立論と、この本の「心理学化」などの関連などとすりあわせて理論構成すればどうなったかなど、思索を楽しむことができた。スペースの関係で、身体論の展開が端折ってあるのが実に残念だ。
 本を下さった岩田さんと、辻さんは総論部を執筆されている。辻さんは、友人関係の「自由市場化」という挑発的な視点を提示され、まあこのへんで新書でも一冊というかんじ。岩田さんは、あくまでもオーソドキシーを重視され、若者論の様々な意匠を批判的にレビューしている。さらなる成果を、単著なりにまとめられていくことが期待される。これを書くためにネットみていたら、ゴマブックスからすごいものが出ているのを知った。『図解 下流時代を生きる!』。階層社会研究委員会って、三浦展氏と関わりがあるのだろうか? さて、研究会だ。前にあたっていたのを、インフルエンザでぶっちしてしまったもの。頑張ろう。