柴田元幸『翻訳教室』

 親の確定申告の手伝いのため実家に帰省。電子入力のお陰で、面倒な計算が自動的にでき、検算もできるのでとてもありがたいが、うちのぢぢいたちはパソコンが使えるのにこういうことになると固まってしまう。こちらも一年たつと忘れているので、とりあえず思い出すのにはいい。パチンコやってから、本屋に行く。そこで柴田元幸の新著を発見した。
 アレの続編かと思った人も多いだろうなあ。アレとは一冊の新書本『翻訳夜話』である。東京大学の学生と翻訳学校の生徒、6人の翻訳家という、異なる聴衆(参加者)に向けて柴田が村上春樹と行った3回のフォーラムの記録で面白くためになる本だった。新書だから切り口は明確だし、シュタッとわかるように編集されている。が、しかし、もっとおなか一杯になりたいという読後感が残ることも事実ではないか。ねっちり、みっちり読みたい。行方昭夫の岩波ジュニア新書を読んで思ったのと同じような気持ち。あの時は発展学習のための文献があげてあり、でもって上田勤の名「講義」を収録した『英語の読み方、味わい方』を知り、おなか一杯味わうことができた。こっちも何かと思っていたので、この本を見つけてうれしいものがあった。もちろん速攻購入しますた。『英文翻訳術』とも違う、ゼミの記録である。ゼミといっても、村上春樹だとか、ジェイ・ルービンなども参加していて、しゃべくりまくっている。

翻訳教室

翻訳教室

出版社の内容紹介

 こんな教室、覗いてみたい!


「この授業は、翻訳という問題をどうでもよくないことだと思う人間がなぜかかなりの数集まった、非常に幸運な場であった。それが本になることで、同じように思われる方々に数多く擬似参加していただければとても嬉しい」(柴田元幸
――臨場感あふれる語り口がフツーの読者をも魅了する東大文学部翻訳演習完全収録!村上春樹、ジェイ・ルービンもゲスト参加!

目次

まえがき 柴田元幸
1 HOMETOWN
From Stuart Dybek, The Story of Mist (1993) スチュアート・ダイベック『故郷』


2 CARP
From Barry Yourgrau (2004) バリー・ユアグロー「鯉」、『ケータイ・ストーリーズ』所収


3 Popular Mechanics
From Raymond Carver, What We Talk About When We Talk About Love (1981) レイモンド・カーヴァー「ある日常的力学」、『愛について語るときに我々の語ること』所収


4 Super-Frog Saves Tokyo
ハルキ・ムラカミ=村上春樹、英訳はジェイ・ルービンJay Rubin “かえるくん、東京を救う” 『神の子どもたちはみな踊る』所収(ゲスト/ジェイ・ルービン)


特別講座 村上春樹さんを迎えて(ゲスト/村上春樹)


5 Invisible Cities
CITIES & THE DEAD 2
From Italo Calvino, Invisible Cities (Le cita invisibili,1972),
translated from the Italian by William Weaver イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』より「都市と死者 2」


6 In Our Time
“Chapter・/・”
From Ernest Hemingway, In Our Time (1925) アーネスト・ヘミングウェイ『われらの時代に』より第5章と第7章の抜粋


7 Inhaling the Spore
From Lawrence Weschler, Mr.Wilson’s Cabinet of Wonder (1995) ロ-レンス・ウェシュラ-「胞子を吸って」、『ウィルソン氏の驚異の陳列室』所収


8 PACIFIC RADIO FIRE
From Richard Brautigan, Revenge of the Lawn : Stories 1962-1970 (1971) リチャード・ブローティガン「太平洋ラジオ火事」、『芝生の復讐』所収


9 Heaven
From Rebecca Brown, The End of Youth (2003) レベッカ・ブラウン「天国」、『若かった日々』所収

翻訳夜話 (文春新書)

翻訳夜話 (文春新書)

英語の読み方、味わい方 (新潮選書)

英語の読み方、味わい方 (新潮選書)

英文翻訳術 (ちくま学芸文庫)

英文翻訳術 (ちくま学芸文庫)

 

 学生が自尊心を賭けた訳文をさらし、それをなおしてゆく。いろいろな気持ちから反論する学生。それに対処する教師の芸を味わうのには非常によい本だ。私ならひねくれた対応をしてしまいそうな、なんともにんともな功名心みたいなものも、真摯な向上心にさらっとかえてみせる。英語の勉強のつもりで買ったのだが、どうにも教育原理みたいな本として読んでしまっている。まだめくった程度だけど。村上もガチで対応している。「マンガ読まないっすか?」とか質問されて、ぎゃははははなどと下卑た答え方はしない。たとえば、知っている限りのヲタク知識を駆使してマイナーな漫画家の名前をならべたてるとか、昔の漫画家へのウンチクを語るわけでもなく、昔は読んだけど今は読まないとか。サクッと本筋を答えている。年齢を考えると出せる長編の数は決まっている。カウントダウンが始まっている。余計なことをやっている時間はない。そう村上は答えている。これがカチンコチン本気なんだな。だから気障に聞こえない。すげえよ。村上と年齢六つしか違わないんだけどな。ここには翻訳の骨法みたいなものが集約されているようにも思われた。なにより<照れないこと>を学んだように思う。
 しかし、実家にいるのでまたまた大河ドラマみると思います。w