小川博司他『メディア時代の広告と音楽』

 大学に来たら、『メディア時代の広告と音楽』。理屈抜きに出版社が下さったんだろうと思った。テキスト選定時期で、どこから伝わったか知らないけど、来年度成蹊大学社会心理学@法学部一般教養を担当するのである。卒論に向けた公式的知識の習熟に気を配ることなく、ざっくり断面を自由に語れるし、再びパンキョーを担当できることは、11年間をそれに捧げた私なりの意地もある。そしてなにより、パンキョーはマスプロなので、人数が多い。この際在庫一掃と行きたいが、やはり法学部なので少年犯罪とかの青少年問題などを多く話すべきだろうなぁなどとも思ったりもする。政治学分野の学生には、メディア・ジャーナリズムなどの話は必携だろう。でもやっぱ半期は自分のテキスト指定しようかと思ってます。教室行ってみたら、鬼少なかったら教科書的には萎え萎えですが。などと皮算用しながら冷静にみてみたら謹呈しおりに小川さんのお名前発見してびっくりし、ひたすら恐縮。ありがとうございました。

メディア時代の広告と音楽―変容するCMと音楽化社会

メディア時代の広告と音楽―変容するCMと音楽化社会


出版社サイトより

◆目 次◆
はじめに
第一章 日本広告音楽の歴史
1.CMソング創生期(一九五一〜五八)
2.CMソング展開期(一九五九〜六六)
3.CMソング融合期(一九六七〜七四)
4.イメージソング萌芽期(一九七五〜七九)
5.イメージソング全盛期(一九八〇〜八九)
6.タイアップソング期(一九九〇〜)
第二章 広告音楽とその作り手たち
1.広告音楽の制作過程
2.作り手たちの広告音楽観
3.タイアップの構造
第三章 広告のなかの音・音楽
1.現代テレビCM表現の一般的傾向
2.CMのなかの音・音楽
第四章 広告音楽のエスノグラフィー
1.メディアの社会空間とオーディエンス
2.広告と音楽受容のエスノグラフィー
3.広告音楽の受容--グループ・インタビューをとおして
第五章 多メディア時代の広告と音楽
1.広告音楽とメディア受容
2.オーディエンスをどうとらえるか
3.広告としての広告音楽、音楽としての広告音楽
あとがき
広告音楽史年表
タイアップソング・リスト
イメージソングリスト
文 献/索 引


◆時代は「広告音楽化社会」◆
かつてのCMソングからイメージソング、そしてタイアップソングへ、広告の音楽は、めざましい変化をとげてきました。いまや、あらゆるヒットソングは何らかのかたちで広告と結びついています。広告抜きに音楽を語ることはできない時代、この「広告音楽化社会」ともいえる時代の変容を、歴史的に、あるいはカルチュラル・スタディーズエスノグラフィーなどの方法を駆使して明らかにします。音楽制作の現場と受容者へのインタビューやアンケート調査などをとおして浮かび上がってくるのは、現代社会における広告・音楽・メディア、そしてライフスタイルの劇的な変容です。巻末に膨大なイメージソング、タイアップソングのリストを付します。


◆本文紹介◆
50年を超える広告音楽の歴史は、イメージソング以前とイメージソング以後と、大きく二つの時期に分けることができる。イメージソングは、広告音楽としてテレビ・コマーシャルのなかで流されながらも、同時にレコード商品としても販売されるという曲であり、一九七〇年代半ばに現れた。イメージソング以前の広告音楽史は、一般の流行歌とはまったく違う世界を形成したCMソングがしだいに一般の流行歌と融合して、ついにはイメージソングとして結晶化する過程と見ることができる。そして、イメージソング以後の広告音楽史は、イメージソングが変質してタイアップソングとなる、また広告音楽自体が歌(ソング)だけではなく多様化していく時代である。(「第一章 日本の広告音楽の歴史」)
http://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/4-7885-0970-9.htm

 競争的研究資金を取った研究プロジェクトをもとに、まとめられた本で、なかみは上の紹介で十分でしょう。広告音楽研究ですが、焦点を絞り込んだ社会心理史の研究としても読解可能で、ゼミや卒論に活用したいと思っています。ともかく詳細に資料を収集し、年表他に整理していることなどをみても、おおざっぱな印象批評っぽい論考はますます通用しなくなっているということを痛感します。整理上手な編者、著者たちが要所要所をしめていて、学問でなければ提起できなような理論や、整理枠などを、現場の人たちにもわかりやすく伝えているように思います。サウンドスケープ論、「家具の音楽」論などから出発した小川さんの「音楽化する社会」論や、増田さんの「つくって楽しむ人々=音楽未来派野郎」論wなど、興味深い視点も生かされていて、かつ社会学独特の理論的な前口上、節回しなどはなく、すっきり切れ味よいものにしあがっていて、非常に面白かったです。まだめくった程度ですが。
 実は、一番時間をかけてめくったのが索引です。真っ先にここをみて、「上野洋子」も「菅野ようこ」もなくて、がっかりしましたが、研究書はマイナー趣味をひけらかすもんでもないわけで、著者たちのそういう識見ががっつり伝わってきます。しかし、それでもなおかつ本筋を踏まえながら、おお!と思うようなところも多く、著者たちのこだわり具合を堪能しました。私はこちらから拾い読みするというかたちで今読んでます。