J.P.L.ロバーツ編『グレン・グールド発言集』みすず書房

 これからは音楽をみんなが編集したり作曲したりしながら発信して遊ぶ時代が来るみたいなことが、増田聡氏の『音楽未来形』に書いてあったけど、聴き手の側が能動的に編集するとかそういう言説は、インターネット社会をどう批判的に考えるかという問題に収斂して行く点で増田氏の言説とはかなり異なるものであるし、断片的な言及でしかなかったような論考も多かったわけだし、増田氏の体系的論考の意義は微動だにするわけではないわけだけど、とにもかくんも90年前後のメディアスタディーズにおいて、メディアの能動的主体みたいなことが議論された時もいろいろそんな風な言説がとりざたされたことがあることは、わざわざくり返すこともない周知のことであると思う。で、そのときに必ず言及されたのがグレン・グールドの著作集(の2)である。たとえば、浜日出夫氏の「マクルーハンとグールド」@岩波社会学講座などもそこに言及していたと思う。要するに、そういう文脈において、グールドの言説が一つの古典的な位置を占めているということが、ここで言いたいことである。そしたら、本屋でグールドの発言集も出ているのをみつけた。

グレン・グールド発言集

グレン・グールド発言集

カバーより

グレン・グールドがこの世を去ってからもうじき四半世紀、バッハの《ゴルトベルク変奏曲》を最初に録音してから半世紀が過ぎた。にもかかわらず、スピーカーからグールドの弾くピアノの音が流れ出すときわれわれの心は連れ出されてしまう。
 いったい、この不世出のピアニスト=音楽家は、どのようにものを考え、演奏と表現を実践して、こんな独異な音楽を生み出したのだろう。本書にその答がある。
 これまで刊行した『グレン・グールド著作集』『グレン・グールド書簡集』につづいて、本書に収められたのは、入手困難なインタヴュー、テレビ・ラジオ番組のための台本、未完・未定稿のまま残されたテキストなど、46編にのぼる。
 バッハ、ベートーヴェンブルックナーなどの作曲家論、リヒテルワイセンベルク、ビル・エヴァンズなどのピアニスト論から、「創造プロセスにおける贋造と模倣の問題」「電子時代の音楽論」や、マクルーハンとの対話「メディアとメッセージ」まで、どこを読んでも、グールドの面目躍如、その魅力は比類がない。
 日本におけるグールド研究の第一人者による、この日本語版は、遺稿「私にとって録音プロセスとは何を意味するか」を独自に加え、文献目録・註を増補、さらに貴重な写真資料も入った決定版である。

 マクルーハンとの対話だとか、遺稿だとかをみればわかるように、上記のような言説に注目してきたような者には、まさに垂涎な発言がならんでいると言える。グールドがなくなった時期を考えると、このピアニストの芸術的な洞察力のものすごさに改めて感嘆せざるを得なくなる。馬路やべーよこれは。ものすごく高くて迷ったけど、買ってみてむしろいい買い物をしたと大満足である。他に話題のオタク市場の本を買った。

オタク市場の研究

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