アウトロー列伝

 893映画でみたような・・・というが、『実話時代』編集部が読者のツボを押さえまくりでつくったムック本が洋泉社から私が知るかぎりでは2冊出ていて、それは野村一夫さんが中心となってつくった社会学子犬ムックと同じ会社のムックだったりするわけだけど、もう手に入らないし、あのとき買っておけばなぁみたいなもんが、今日、本屋をぶらぶらしていたらみつけた。猪野健治鈴木智彦他定評のある執筆者が書いたものであり、当該ギョーカイねらいでいたずらに美化するのではなく、徹底した取材と識見で普遍性のある読み物、というよりは戦前戦後の日本史に鋭く斬り込む著作になっていることは、猪野がちくま文庫から何冊か出している著作と同じである。文庫と違い、写真も豊富であることも興味深い点である。

日本アウトロー烈伝 親分

日本アウトロー烈伝 親分

【第一章】 黎明期の親分たち
【第二章】 復興期の親分たち
【第三章】 高度成長期の親分たち
【第四章】 昭和後期から平成の親分たち
侠(おとこ)たちの戦いと浪漫がここにある!その強烈な生き様や個性でヤクザ史に名を刻んだ親分たちも、彼らが生きた時代と無縁ではない。異彩を放った男たちのクロニクル―器量とは何か。

 まあこういう宣伝文句をみるといたずらに美化しているようでもあるわけですけれども、まったくそんなことはない。猪野の単著で読んだ柳川次郎のところを一番先に読んだわけだけれども、朝鮮人であるからといってそんなことはヤクザになった言い訳には断じてならないとトランス状態のようになってまくし立てる朝鮮人女性の姿の描写から書き始めてある。そしてヤクザ社会のなかにも厳然と存在する差別の問題を見すえながら、貧困の問題とユートピアとしてのヤクザ社会を、その虚妄も含め、シビアに論じている。朝鮮人の女性がまくしたてたことは、映画の柳川組では解散の理由とされていたものだが、警察が強制送還をちらつかせて解散を迫ったことなどにも触れている。田岡一雄、菅谷政雄、地道行雄から、山本広、竹中正久までを「主旋律」にして、詳細な人選で議論が展開されているが、論はコクがあり、考察は冷静で深い分析に基づいている。ただし、本の帯だけが、なぜか「カタギ衆に愛され」などと歌舞伎まくっていたりする。