石川真澄『戦争体験は無力なのか』(岩波書店)

 宿の予約がとれてほっと一息。さあ勉強と思ったら、さすがに郵政法案のことが気になりテレビをつけてしまい今までずっと釘付け。生来のながら族なので、石川真澄氏の『戦争体験は無力なのか』を読みながらみていた。昨日買った本だ。亡くなっていたということで、びっくりした。岩波書店のHPに抜き書きしてあった国正武重氏の紹介をまず引用しておく。

 石川真澄さんは,朝日新聞での政治担当の編集委員の頃,政治改革論議を通じて独自の論陣を張った.なかでも,1990年,海部俊樹内閣が政治改革のために「不退転の決意」で臨んだ「衆院への小選挙区比例代表制導入」をめぐって,石川さんは「死票を大量に生む結果を招く小選挙区制は民意を国会に反映できない」と,絶対反対の態度を貫いた.それは「政治改革」の名のもとの小選挙区導入が世論の大勢の中で,“孤立無援”に近いたたかいでもあった.(本書「ジャーナリスト石川真澄さんの素顔」より)
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0236530/top.html

 石川氏は、岡山大学の谷聖美さんが企画した岡山大学教養部での講演会に来て下さったことがある。おだやかな話しぶりだが、戦後政治の問題を鋭く射抜くものであった。印象に残ったのは三つ。
 一つは、「左より」と言われる朝日の論調が、実は戦前の悔恨と反省に基づいているということである。敵と言われる国のことを、もっと深く、相手の立場に立って理解することで、戦争を防ぐことができたのではないか。そうした悔恨と反省が、今日の朝日の論調をつくりだしている。そう石川氏は言った。こうした論調は、国際政治の生き馬の目を抜くようなかけひきのなかではあまりにぬるく、あきれるばかりであると、たとえば中西輝政氏などは厳しく批判している。ミルズは、どちらの側にもつかないと思うのだが、最初に本を書いた一つの章の枕にこの話を使った。今回の書物の題目は、こうした悔恨と反省に基づくモチーフを堅持した結果であると思われる。
 二つ目は、「土建政治」についてである。本多勝一の「田中角栄を当選させた側の論理」論*1なども交えながら、「地域格差」をめぐる一つの識見が自民党政治のなかにあったが、それが局所的ゲームとして歪曲され純化されたのが、「土建政治」である。それは、地方のやるせない怨念を癒すと同時に、慢性病のように日本の国をむしばんだ。まだ、バブル崩壊以前の話である。「地域格差の是正」についての現実的対案を提出することは、今回の書物の主題にもなっているように思った。
三つ目は、自民党の魅力と野党のダメさである。自民党は高級官僚から、小学校でのおっちゃんまでいろいろいて、その雑多さが魅力となり、また安心感となっている。野党は、言うことはみんないっしょだし、学歴主義だし、大げさに言えば顔つきがみんな同じようで、区別も付かないかんじだ。そんなことを話されていた。岩波のHPには、詳細な目次がのっている。私の印象に残った三つ論点にほぼ沿うかたちで、論が展開されていることにビックリした。

<目次>

はじめに (国正武重)

序 「戦争体験」は無力なのか

I 昔の影が伸びてくる

  国旗・国歌法の公聴会を終えて
  2000年の夢
  これからどうなる
  「バイパス政治」の果てに
  あれは一体何だったのか
  薄れゆく夏の日の対立
  昔の影が伸びてくる
  あれから半世紀がすぎて
  「愛国心」っていったい何?
  「戦争の話はしなかった」
  ある社会党議員の思い出
  日本語の乱れが国を滅ぼす

II いまの政治は腐っている

  自民党総裁選と民主党代表選
  日本政治――この腐敗と逸脱をどうするか
  新しい政治は生まれるか
  小泉人気の正体
  官僚は凡才だらけがいい
  小泉人気武蔵丸の気持ち
  共産党は変われるか
  あまりに陳腐な「宗男」「紘一」事件
  エリート派閥が没落するとき
  民主党のロゴの「ガタガタ」

III 選挙制度政権交代

  住民投票ヒトラーを生む!?
  「復活当選」禁止の怪
  投票になんか来るんじゃなかった
  政権交代を妨害した小選挙区
  「大都市部」とはどこか
  公共事業は票になる?
  米大統領選で露呈した衆院選の矛盾
  参院選投票率増減のしくみ
  こうすればできる,格差是正
  「2003年総選挙」をうらなう
  総選挙で自民党は敗れるか
  やっぱり「政権交代」は起こらない
  巨大化した「保守支持」の果てに

IV 衰退するジャーナリズム

  ジャーナリズムに希望はあるか
  言論はこうして抑圧される

V 社民主義勢力不在の不幸

  自民・民主党の総裁・代表選でマスメディアが伝えるべきこと
  英国地方都市に見習うべき核事故発生にそなえた覚悟
  法律の実態を示してくれた企業・団体献金禁止の見送り
  日の丸の蔑称“膏薬旗”にみる日中における歴史認識の格差
  「政治改革」の完全な失敗を意味する小沢氏の政権離脱
  首相の質が明確に分かれる「中曽根以前」と「竹下以後」
  そごう問題の政策決定過程でまったく無力だった内閣と国会
  社民主義勢力不在の不幸

ジャーナリスト石川真澄さんの素顔 (国正武重)

 
 先日テレビで、小泉政権はめずらしいくらいお金のニオイのしない政権で、それが支持率につながっているというようなことを言っていて、要するところ強硬に古いシステムをぶち壊そうとしたという点で、アメリカをバックにしたグローバルな視点から旧来のシステムに鉄槌を加えたということなんだろうけど、それが原爆から終戦/敗戦の記念日に至るころに問題になり、そして石川真澄氏の本を読んだ(というより眺めたという)ことを銘記しておきたく、ちょっと日記に書いてみた。今はテレビでネットどころではない。勉強もどっかに行っちゃった。そして深夜はさんまちゃんの番組があるが、それは未来日記だな。休みになると授業がないぶん書くことがありすぎるね。10日先くらいまで、ネタ切れはないかも。w

*1:前にも話したが、ロッキード事件のあと、正義の御旗を掲げて角栄を糾弾する新聞各紙のなかで、本多勝一角栄を当選させた雪に埋もれた村々をまわり、当選させた側の論理を緊急取材した記事をまず発表、その後丁寧な取材をして著作としてまとめた(『そしてわが祖国日本』)。