岩波の現代文庫から竹内好論が出ているのを、横浜の有隣堂で発見した。最初に本が出たのは、たしか大学一年生の秋頃だったと思う。幼稚で、左っぽい、自己肯定の心情から、読むリストからはずしたことを思い出した。その後竹内好の存在は、「自生」という概念への関心により大きなものになっていった。地方都市の文化、ヴァナキュラーの概念などなどの研究をすすめるなかで、その存在はより大きなものになっていった。文庫などで読めるものを読み、また鶴見俊輔による竹内論を読んだりしただけであり、「68年体験」を媒介した人からすれば、ふざけるなと恫喝されそうな切実しかないのである。
- 作者: 鶴見俊輔
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2001/03
- メディア: 単行本
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- 作者: 松本健一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/06/16
- メディア: 文庫
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いろいろな人がアジア論、日本論を提起している。本書の出版は、そうした動きを受けたものかと思ったが、そうではなくハイデルベルグで2004年に行われた「竹内好・国際シンポジウム」を一つのきっかけとすることが、あとがきほかからわかる。私的には、論壇的な主張であるとか、アカデミックな研究というよりは、著者の竹内との交友などが書かれていることの方により強い関心を覚えた。石井十次や高梁市のことなども語られている。本筋よりも、ついついそういう方に目がいってしまう。しかし、この本は、竹内の歩みや精神的な交流を詳細に描いている。本筋の方も面白く読んだ。が、ブルーフィルムの秘密鑑賞会に竹内が来ていて、ハゲ頭をなでながら見ていたという、とある小説の一節のリアルとはまだまだ落差がある。