佐伯一麦『川筋物語』(朝日文庫)

 今日は非常勤二つ。午後は吉祥寺サブカル研究。その前に午前中社会学史。講義を終えて、葉桜などをみながら、駅前の増田書店によったら、佐伯一麦『川筋物語』が文庫になっていた。『ア・ルースボーイ』は私の愛読書であり、正直悪人車谷長吉より「気恥ずかしいくらい真摯」(ポンちゃん談話翻案)な佐伯の作品の方が、「私的」だなぁとは思う。「青葉城恋歌」で有名な広瀬川の風景、そこに生きる人々の姿を、ひたむきに描いている。ひたむき、真摯というと、くせぇ形容だと言うかもしれないが、佐伯一麦の凄いところは、ものすごい観察眼でものを見て、文章力で描ききっていることなんじゃないかと思う。クサイ素材を料理してみせる名匠ってかんじで、スゲー権威主義的な言い方をあえてすれば、古井由吉と2人で本だしてたりするわけだし、半端じゃない。というようなわざとらしい照れかくししたくなるくらい、−−もともとの本をもっているのに、−−立ち読みに時間をかけてしまった。持っているんだから、買う必要もないわけだが、買った。それは、「一読者から」という題名の解説文が添えられ「読者 橡少ヱ門」と名前が記されている。誰これ?と思った。検索したけど出てこない。川筋をいっしょにあるいた人であることだけはわかる。解説の文章は、なかほどのところで、やや抽象的な話が出てきて、ちょっとわかりにくいところがある。だが、次の文章を読んで買うことにした。文中、外物とは、自然、歴史、伝説、鉄道、農業、トンネル、街道、神社、仏閣・・・などである。芝居がかった言い方をすれば、この三行で小説の概要はつくされているようにも思われた。

 「私小説」を「地誌」のなかに相対化してしまう、というほとんどありえない試みを、作者はそれを承知のうえで行っていて、ゆえにこの小説は、多くの外物に多感に触れつつ、その外物をも取り込んでしまっているように思われるからです。

 それにしても、佐伯原作の『ア・ルースボーイ』の映画はお蔵入りしたまま終わるんだろうか。どうにか日の目をみないものかと思った。その作品がどんなものかわからないんだけど、みたいし、誰か権力と金のある人がなんとかすべき問題じゃないか。機は熟していると思うし、また時宜にもあっていると思うのだが。
 この他、車谷長吉銭金について』も朝日文庫から出ていた。「銭」は旧字体。こちらは一ヶ月ほど前に出た本である。これはまた後日。

川筋物語

川筋物語

川筋物語 (朝日文庫)

川筋物語 (朝日文庫)