高根正昭『創造の方法学』(講談社新書)再読

 本屋をぶらぶらしていたら、悪評紛々たる新装丁の講談社新書のなかに、『創造の方法学』があった。なつかしいと思い手にとった。このての本は出版されるとすぐに買って読む。私は勉強法の本が好きで、ガキの頃から、目につく限りのものはすべてヨンできた。しかし、この本は特別な本である。なぜかというと、大学院に合格した前後に買ったのだ。人生のなかで一番勉強に萌えた頃だし、そのころはまだ精神を病んでなかったし、アメリカに留学したいと思っていて、そんな気持ちも手伝って、アメリカ留学体験記であると同時に、社会学者が書いた学問の方法論であり、抜群の読みやすさと、知的興奮を与えてくれるこの本から、いろいろなものをもらうことができた。教室でのブルーマーとのやりとりなどを読み、アメリカに行った自分などを夢想した時代が懐かしい。そういうピュアな野心は、冷めないウチに実行にうつすべきだ。そうでないと、いまだに国境を越えたことがないという私のようになる。それでも、もちろんそれなりに、向上心は失っていない。新学期を迎える春休みに気分を一新するために、新しくこの本をもう一冊買った。そして、ネットでいろいろ調べてみた。概要をネットから貼っておく。

内容紹介

アメリカの幼稚園では、絵にしろ工作にしろ、両親や先生が、手本を示してはいけないことになっている。模倣を排し、個性を尊び、新しい表現と、知識の創造を目ざす風土と伝統なのであろう。西欧文化の輸入に頼り、「いかに知るか」ではなく、「何を知るか」だけが重んじられてきた日本では、問題解決のための論理はいつも背後に退けられてきた。本書は、「なぜ」という問いかけから始まり、仮説を経験的事実の裏づけで、いかに検証していくかの道筋を提示していく。情報洪水のなかで、知的創造はいかにしたら可能なのだろうか。著者みずからの体験をとおして語る画期的な理論構築法が誕生した。

著者紹介

1931年東京に生まれる。1954年学習院大学政治学科卒業。1963年、渡米。スタンフォード大学修士、カリフォルニア大学(バークレー社会学博士。カリフォルニア州立大学助教授、上智大学教授を歴任。1981年逝去。

目次

方法論への道/問題をどうたてるか/理論と経験をつなぐ/科学的説明とは何か/数量的研究の方法/全体像をどうつかむか/現場の体験の生かし方/参加観察の方法/ジャーナリズムに学ぶ/方法論の一般理論へ

 まあこんな風に、今はいろんな情報がネットから手にはいる。いくらでもコピペ、カッペで知ったかぶりはできるようになっている。院生時代、先輩の栗原孝さんに、「論文で○○の『・・・』を引用したのですが、出版年と出版社わかりませんか」などとしばしば電話し、「そういういい加減な学問しているとろくなことにならないよ」とご注意をうけつつも、よく教わっていた。こんなバカな椰子は今はそんなにいないのかもしれないが、まあそんな程度の水準にあるような場合、ネッは、論文の粉飾にも非常に効果的だろう。言うまでもないが、そんな腐った学問は間違いなく伸び悩む。つぶれなかったのは奇跡かもしれないよ。ともかく、逐一図書館などで調べるべきことがらが、効率的に編集できるようになった。まあこれは悪いことばかりではなく、むしろそういう時代にふさわしい、知の方法、知の倫理、知のガイドラインなどをつくってゆくことが必要なだけだとも思うが。それはともかく、そんな情報が氾濫している今日において、学問の基本としての考え方の基礎をキチッと学んでおくことは重要だなぁと、再読してみて、そういう芯となる部分を学ぶには、類例のない本であるというような気がした。なにより読みやすい。そして、再読して一番驚いたのは、不思議なくらいに時代遅れになっていないことである。コンピューターのところなども、もちろん今はカードなんか使わないのだけれど、基本の考え方がしっかり出ているので、それほど支障なく読める。基本的な骨組みがしっかりしているからだろう。もちろん、それは私が基本ができていない証拠なのかもしれないが。
 なにより、教育する立場から、少なからぬ知的興奮を覚えた。結果、私の決意は、来年度の一年ゼミのテキストにしようということである。大学に入りたてで、いろんな意欲がある学生にこの本を読んでもらうことは、意義深いのではないだろうか。などと思い、ぐぐりまくっていて、若干迷いはじめている。大学一年生には無理なのだろうかということである。アマゾンのコメントを三つ引用しておく。一つは、よい点を簡明に指摘し、さらなる発展学習の本を示したコメント。もう一つは理系の立場から、絶賛はできないが・・・という辛口コメント。もう一つは大学院のテキストにもなっているという証言。この三つである。

よい点と発展学習

お勧めの一冊。研究を始めるならば、着手する前に、まずこの本を読むことが重要ではないだろうか。読めば、この本の重要性がわかるだろう。創造の方法学を読んだ後に『社会科学のリサーチデザイン』を読めば、より研究の方法論についての重要性と内容が理解できると思う。『創造の方法学』から読まないと初学者は理解するのが困難かもしれない。研究と書いたが、職場で報告書を書いたり、自分で思いにふける場合にも、この本の中で書かれていることを理解すれば、時間がより有効に効率的に使えるのではないだろうか。

理系的な辛口コメント

文系の方向けの本だと思います。社会学系の分野において,媒介変数など数学用語を“使った”ということ自体が目新しいのかもしれませんが,理系の立場から見ると新鮮な内容ではありません。回想がところどころに入っており,文章として読むのは面白いですが,方法論の体系的な教科書とはとても思えません。内容紹介だけを見て購入する方は注意です。

現場からのコメント

この本は一橋大学大学院MBAコースにおいて、「理論構築の方法」という名で行われる講義の基本テキストの一つとなっている。この本を学ぶことによって、問題意識や原因と結果の関係、命題と仮説、記述と説明、概念とデータ、因果法則、実験群と統制群、媒介変数など、貴重な思考道具を学ぶことができる。/どこの大学でも卒業論文修士論文が毎年大量に書かれているが、こうした方法論を学ばないと、単なる引用の寄せ集め(場合によっては盗作)やレポートの域を出ない「自称」論文しか書けないであろう。/日本ではそういった思考法や思考のための技法を教えてくれる大学は少ないので、そういった人たちはこの本を読んで、方法論を独学するといいのではないかと思う。

 もう少しブログ検索などもして、調べてみようかとは思っているわけだが、大学院テキストになっているというのは、ちょっとひかないことはない。まあしかし、読んでみて、わからないとは思えないんだよね。経験的に言って。ここに書いたのは、受講者の人が見るということももちろんあるわけだけど、なんか教育体験、勉学体験のコメントがあったらいいなぁと思い、書いていることもある。四年の卒論指導でも、今年はギリギリくんではなく、こっちを使ってみようかなぁと思っている。