今年度卒業論文の概要とコメント

 ようやく時間ができたので、卒業論文の題目と内容などについて、忘備的にまとめておきたいと思う。普通ホームページなどにのせる場合に名前も記載して一覧にしている場合も多いが、承諾を得ている間もないし、個人情報的な問題もあるので、題目のみ記載することにしたい。

青少年問題(1)

1.現代社会と人間関係
2.コミュニケーションと距離化
3.情報社会とコミュニケーション

 青少年研究会の調査報告書、それを出版した『みんなぼっちの世界』などを購読し、『社会調査へのアプローチ』を他方で購読し、質問を追補しながら、報告書をまとめるというのが、私の「社会調査実習」講義*1の核となるメニューである。それを通じて、友人関係、携帯電話使用などの概要を勉強するとともに、浅野智彦氏の親密性変容論、辻大介氏や松田美佐氏の友人関係論をはじめとする論のイッシューをレビューするという論文の基本作業を学ぶ。そうした作業に基づいて、書いたのがこの三つの論文である。共同研究に基づき、それぞれにデフォルトの勉強に一ひねり加えている。2は、ゴフマンの著作を読み込み、「距離化」という概念を設定し、人間関係の重層性を読み解いた。秀逸な作品である。1は、選択・普遍共存型関係論に学び、さらに一ひねりを加えることで、選択化論に近い方向で新しい若者の友人関係を指摘しようとした。3は孤独回避論に学び、希薄化論に近い方向で新しい若者の友人関係を指摘しようとした。この方法は、学問の基本手続きを学ぶのにとてもよい方向である。これ以外の分野でも「〜説」というかたちでコンパクトなイシューアーカイブを確立すれば、かなり簡便な卒論のフォーマットができることになる。まあしかし、それは善し悪しあるのかもしれない。

青少年問題(2)

1.人間関係の社会心
2.現代若者像ー「心理学化する社会」についての一考察ー
3.現代社会の少年犯罪理論ー17歳の心の葛藤ー

 いずれも少年犯罪やその背景にある社会の変化について論じたものである。宮台真司斉藤環香山リカといった青少年問題の論者の議論を学ぶことは、学生の要望も強く、三年次演習の基本メニューになりつつある。それを踏まえて書いたのがこれらの論文である。1は、上記の友人関係論における選択化論、希薄化論などのイシューを視野に入れ、かつ土井本における「個性の強要」という問題とすりあわせ、そこから長崎佐世保事件(いわゆるネバダ)を分析した。非常に可能性を秘めた立論であったが、土井本に大きく影響されることでその結論に論を着地させてしまった。また、佐世保事件の分析も新聞記事を分析したにしては、社会に帰責させる論だけが突出し、特定の常識をなぞる結果になったことが副査から指摘された。論の対立をレビューし、調査や文献精査に基づき常識的な議論、マスコミ的な物言いに批判的になることが大事だということが、副査との協議においてあらためて確認された一作であった。2は、言ってみれば、「心理学化する社会」論に知識社会学的な反省を加えたもので、こうした意味での批判性はクリアできている。また議論もほぼ網羅できているものの、「じゃあなんなのか」と言われた場合残るものがあまりなく、準備不足は否めない。3は、地方都市における少年犯罪について分析したものである。二年次に非常勤で来られていた佐藤恵氏のゼミで、逸脱論などを学んだ成果を生かし、ベッカーやゴフマンの所説を援用しながら、「17歳」という通説的な議論の背後にある構造を批判的に読みとろうとしたところ、そして「地域性」というパラメーターを提示し、三浦展氏の「ファストフード化」論なども視野に入れつつ、少年犯罪の問題にを考察した。シビアに言えば、「じゃあなんなのか」という論理の厚みが問題であるが、記述の厚みがあり、説得力のある論文である。

メディア論系

1.情報選択に関する社会学的一考察
2.現代社会とモラルー東京都の青少年健全育成条例改正に伴う、「不健全雑誌」自主規制のあり方についての一考察ー
3.消費社会のゆくえー快楽を求める消費者ー

 うちのゼミに来る学生には、メディア論を志向する学生も多い。私自身がメディア論かどうかは、非常に問題だとは思うが、師匠やまわりの人たちにそういう関係は多く、親しみのある議論であり、執筆を認めることにしている。1は、当初はメディアにおけるコンシェルジェ的なものをブログに読みとるという構想から出発したのだが、途中で構想を変え、ブログなどが現出している今日のメディア状況のなかで、「口コミ的なもの」がかたちをかえて現れているということについて、文献研究を行ったものである。ブログ礼賛論に終わるのではなく、「バイラルマーケティング」の社会学性を整理することで、「口コミに操作される人々」という面もあるのではないかという皮肉を指摘しようとした作品である。論旨はピシッと通っているが、イマイチ厚みとコクがないのが惜しまれる。3は、欲望消費社会の現況について、二次文献を読解することで整理したものである。新書本の知見を要領よく逆手にとり、実にメリハリのついた論を展開している豪腕は実に(・∀・)イイ!!のではあるが、あまりに時間がなかった。自らがうちこんできたウズベキスタンの国際ボランティアの問題と、消費社会の問題を結びつけるという遠大な構想がやはりというか無理がありポシャったのが痛かった。3は、うちのゼミのエースの作品。膨大な社会学史、概論の知識に基づき選んだのが、メディア論のなかでの報道の自主規制の問題。条例などの膨大な資料を整理して、メディアの受容理論リテラシー論などへの理論的なレビューに基づき独自の知見から分析した。面接で緊張しすぎて、わけわかめになったのは惜しまれるが、その減点を踏まえても秀逸であった。が、まあ、本格派すぎて気が利いた切り口がないと言えばない。が、それはまたよいことでもある。

文化社会学

1.住空間の社会学
2.カフェ空間の社会学的一考察
3.演劇の社会学
4.父性の社会学的研究
5.魅力の社会心理学ー化粧行動にみる対人魅力
6.女性と化粧

 本来はここが多くなるべきなのだろうが、さほど多くなかった主題である。1は、「個室化する社会」の住空間について、現象学的な地理学におけるメンタルマップなどの考え方を使い、「個室化される空間の住みこなし」にこそがむしろ重要であるということを指摘した。「個室化」という常識について、調査に基づき批判的に分析したという点で、面接の物差しは十二分に充足している。ただし面接はかなりしょぼかった。2はカフェ空間について歴史的に考察したもの。カフェ空間の変遷について整理したあと、「スタバ的な空間」について、宮台真司氏の「第四空間論」とゴフマンの「儀礼的無関心」の概念を用いて分析した。ようするに「なんとなくいっしょにいるけど、喋らない人々」の分析。ゴフマンと宮台氏の分析の併用について、一定の疑問が副査から示された。まあ、結論部経たって、有効な反論ができなかったのは本人の責任。3新世代演劇の担い手たちのインタビューを行った貴重な作品。佐藤郁哉氏の作品を踏まえつつ、新しい動向を指摘しようとした点は高く評価できる。しかし、面接でテンパって、社会学性について、日本の歴史と演劇の歴史は重なるというわけわかめな言葉をくり返し大幅減点。。。残念!!まあそれても優れた論文ではある。4は父性について、性別固定する必要もないものという観点から、新しい父親像母親像を提起した。が、文献を整理しただけの常識的な議論にとどまる点で、シビアな指摘を受けた。オリジナルな目玉となる研究がないと、やはり優れた論文とはならないのが現状である。5は、化粧について、「対人魅力」の概念をおき、化粧心理学などの成果をゴフマン的な知見から再解釈するという議論を展開した。オリジナルな調査がない文献研究であることが惜しまれるが、十分に議論の厚みはある。面接にスーツで現れ、自己提示のパフォーマンスをしたのには、副査の先生も思わず苦笑。6は、雑誌購読と化粧行動の関連について調査により明らかにしようとしたもの。ゴージャスな化粧を志向する層と、自己主張のはっきりした個性的な層が意外に類似の化粧傾向があるという発見があることは、ゴージャス層という主体の特性の一面を指摘したものとして興味深い。が、肝腎の雑誌の分類などが、ややもすると週刊誌ネタの水準をでない面があり、惜しまれる。

身体論系

1.現代社会と身体
2.健康ときれいの社会学

 これも三年次の身体改造をめぐる調査を踏まえた共同研究の成果である。調査は、化粧、整形、ピアス、タトゥーの四部たてであり、非常に詳細な力作である。1は、このうちピアス、タトゥー、インプラントほか、こあな身体改造について扱ったものである。デュルケム的な儀式論の延長線上で解釈せよという指導教員のいうことに真っ向から逆らい、「自己主張」という点から一貫して解釈しようとしたことや、論の厚みは抜群であり、秀逸なものであると考える。が、まあ「自己主張」「マニアック」などというだけでは空疎であり、その点で有効な解釈が出せないのは、理論的な勉強不足であるとは思うけど、そこまで言うのはまあ気の毒かもしれない。インタビューまでやっているし。いい気になるなってことだな。2はゼミⅠの勉強家の作品ではあるが、身体論その他の分厚い理論的勉強が十分に生かされず、点描と、調査結果の照会に終始してしまったのは惜しい。
 まだ評価の会議はしていないので、最終の点まではわからないが、その前に一応の好評をまとめた次第。かなりショウアップしていると思う。やはりねぎらいもあり、好意的に言い過ぎている部分もある。しかし、まあこれが私の心象風景ではあるといえるだろう。今日は早くおきすぎふらふら。これから、プロジェクトYの研究会に行くか迷い中。

*1:うちの大学ではゼミ別に実習を行っている。