川本三郎『我もまた渚を枕』晶文社

 ホテルによってちゃりで外出。今日はゆっくりできる。まず行くところを考えた。健康ランドかサウナでマッサージ。あるいはふぐなどを食う。あるいは、と考えていたら、丸善にいた。ここは暇さえあれば通ったところだ。店内は広く、なかなかの品揃え。すいていて、ゆっくり本が見られる。文具なども充実していて。ここにこれなくなったことで、私の読書水準は落ちたような気がする。なんか一冊買おうと思い、ピンときたのが川本三郎の新著であった。「東京近郊ひとりたび」という副題がついていて、荷風だとかの文人とはまた興趣の異なる、散歩の記であろうと思った。川本は、うちの実家の近くの東映に時代劇祭りみたいなのを見に来るなどとゆっているので、そんな意味でも親しみを持っている。荷風論を読んで以来、いろいろなものを読むようになった。私的にはもうちょっと派手に歌舞いた文章に萌える傾向があるので、ちょっと距離を置いていたが、読みなれると馬路イイと思う。たとえば、初期の小林秀雄の、たとえばランボーなんかをよんで、歌舞きまくり萌え萌えになって、ぶざまな文書を書き、良識ある人々の失笑を買ってしまうような手合い、つまりは一定年齢のころの私のようなものには格好の解毒剤なのではないかと思う。まだもちろん読んでないから、一応楽天から解説こぴぺ。

消えゆく下町を見つめてきた著者が、変化の激しい東京を一歩離れ、「旅」に出た。向かうは、千葉・埼玉・神奈川など東京近郊16の町だ。船橋で太宰の旧居跡を訪ねる。市川で荷風晩年の足跡をたどる。犬吠埼新珠三千代に思いをはせ、本牧で野良猫を眺めてビールを一杯…。観光地めぐりだけが旅の醍醐味ではない。身近にも時代の光と影が交差する場所がある。平凡だからこそ記憶したい風景がある。心の隠れ里をさがし求める町歩きエッセイ。

【目次】
磯の香にひかれて歩く漁師の町「船橋」/ローカル鉄道に揺られ、川べりを歩く「鶴見」/近未来都市と田園風景が共存する町「大宮」/下町の匂いが残る本当の横浜「本牧」/手賀沼利根川、水と暮す町「我孫子」/荷風晩年の地、寺と緑と川の「市川」/歴史に消えた風景の幻が甦る町「小田原」/ローカル鉄道と漁港の町「銚子」/京急大師線沿線、工場街を歩く「川崎」/「基地」と「日常」が溶け合う町「横須賀」/横浜の裏町、「寿町」「日の出町」「黄金町」/鉄道の思い出が残る、かつての軍都「千葉」/二つの川の恵み豊かな人形の町「岩槻」/緑と太陽と潮風の町「藤沢」「鵠沼」/相模川、水奈川。川べりの町「厚木」「秦野」/京浜急行終点、海辺の隠れ里「三崎」

 ちゃんとうちの近くの「裏町」も出てきたりする。下町だ、山の手だという、紋切の情感に耽溺することなく、こざっぱりした文章がならんでいる。まあそれでいて、雑食な感じもするところがすごいと思う。しかも、わくわく感がひしひしと伝わってくる感じ。やばい街をひつこく描写することで、なにかを希求するようなそぶりはさらさらなく、むしろわかっているけどさらっと流すという感じがとてもいい。レゲエのファイアーボールの横浜の描写とはまた違うけど、クールなのは同じかなぁ。
 さて、めしでも食って、のんびりしたいと思う。