社会学の手筋−−キメと魔??

 卒論の添削依頼が続々と来るが、締め切りだとかいろんなことがあって、二日ばかり返信が止まっている。今年の人たちは早め早めにやってくれるので、けっこう楽にさせてもらっている。「遅番」志願の人もいて、心配だけど、五月雨式と言いますか、時間差添削みたいになって、歓迎の面はある。とりあえずこのくらいになると言いたいことはほぼ決まっている。構成も、フォーマットみたいの決めてやっちゃってるから、たいして差はない。凝る椰子は自分で考えるし。かけない椰子の場合はとりあえずコピペでもなんでも貼らしてしまって、それから書き直させる。下限40000字という分量の恐怖感さえとりのぞけば、けっこう筆がノリノリになってくる。わからないから怖くて筆が進まない人が多い。こんなもんかと思えば、どんどん自分で書きたくなってくる。面白くなってくると、どんどん工夫しだして、こっちも腕の見せ所となる。腕の見せ所とは、まとめるための趣向、アイディアである。
 私は将棋がけっこう好きで、謙遜もへったくれもなくたいして強くないんだけど、ガキの頃から将棋の本を読んできた。ガキの頃読んだ本は、棋譜解説をしながら、勘所みたいなものを、きわめて不親切に書いたものが多かった。名著の誉れ高かった『将棋は歩から』にしても、「公式集」というコンセプトを採り入れて、歩というコマの使い方を分類して書いてあるにはあったが、それでも根気よく何度も読んで身につく類のものだったと思う。これが、受験参考書などの影響もあって、棋譜の連続性を断って、手筋と呼ばれたコマ使いの妙を整理、訓練するようなものが出だした。「次の一手」というかたちの問題集が出たことは、一種革命的なことだった。
 同じようなことが、社会学についても言える。かつてはきわめて不親切な本を、根気よく読み解く必要があった。それを各自が整理して、ノートなどに書きつけた。それがいろいろなかたちで「公式化」が進むようになった。『社会学の基礎知識』、『命題コレクション社会学』、『社会学がわかる事典』などなど。これらは、どれもとても面白い。しかし、これらは概念や理論の概説的な解説であり、将棋で言う手筋にあたる、社会学の基礎体力になるような部分を定式化したものは、『パラドックス社会学』くらいしか思い浮かばない。しかしこれもいろんなパラドックスを集めただけのものであるとも言える。教室で本を読みながら、教える社会学の勘所、キメと間/魔を与える手筋を解説したものとは言えないようにも思う。もちろんお前まとめろと言われてもまとまらないけどね。田多、社会学の卒論を書かせると、いたるところでそういう話が出てくる。著作や理論のなかにある手筋の使い方。誰か要領よくまとめたものをまとめてくれないかなぁと思う。『反社会学』はある意味そんなところはあるけど、もっとガチガチに手筋を集めたものが欲しいのである。
 もう一つは、論文のレトリック、図解法、整理法をいろいろ教えて行くことにある。とてもいい本だけど、さすがに伊丹敬之『創造的論文の書き方』はむずかしいみたいだ。とりあえず書き終えることを目標にすると、「貢献」まではなかなか問えない。かといってギリギリクンではちょっとなぁと思う。4象限の図、表、・・・いろんな論文のキメは、たくさんイイ論文を読み、それぞれのキメと魔/間を読みとることで、「あーこれ使ってみよう」てなことになる。そのキメのコレクションを誰かまとめてクンないかなぁと思う。今の卒論執筆法本は、総まくりでありすぎて、イマイチ欲求不満なのである。しかし、そんなもの集めて売れないんだろうね。ネット検索すれば出てくるかと思ったけど出てこない。「予備校的なもの」「予備校的な知」のなかにむしろそういうものがたくさんあるように思う。