T・コポマー『ケータイは世の中を変える』について

 泳いで、家に帰ると、川浦康至さんたちが訳された『ケータイは世の中を変える』(北大路書房)が届いていた。いただいた本は、なるべくブログで紹介するようにしている。あまり本をもらわ(え)ないからできることである。ここで紹介しても、ワールドダウンタウンでサーフしている人ばっかなんだろうけど、いちおうソキウスさんのつくった社会学者のブログというアンテナにエントリーされていて、そこには「宿題を出された小僧」だとか、「反社会学の帯を書いて著者の嫌疑がかけられている人」や、「制服少女・・・著者様」などもエントリーされていて、そこにタイトルが出るから、けっこう宣伝にはなると思います。だから本くれ!!というのは冗談だけど、一応そういうことで。ニャハ。
 この本の内容は、「携帯先進国フィンランドのモバイル文化」という副題から、かなりはっきりする。腰巻きには「サンタの國から携帯の國へ」とあり、携帯シェア世界一の「ノキア」を産み出した國の調査に基づく、携帯と社会の関わりの分析であり、その先進国フィンランドと日本を比較したものになっている。詳細な聞き取り調査からの抜き書きを一つの柱として本文が構成されている。また日本での携帯事情などとも比較して、解説論文が付いている。
 訳者の川浦さんは、安川一氏をして「自分をCMC(コンピューターを介したコミュニケーション)研究に引き込んだ張本人」と言わしめた人である。心理学的な社会心理学の実証的な調査技法を使いこなし、ケータイ、コンピューターネットワーク、ブログなどについて、「堅気な調査研究」の成果を出し、社会心理学会で賞などももらっていることは、関連学会関係者や社会心理学徒には周知のことであろう。ダンディな洒落た風貌の先生で、年齢よりはかなり若く見える。佐藤毅氏を中心とした研究会に参加したことが機縁で、佐藤ゼミの院生連、つまりはわれわれと知り合いになった。私は研究会に出ていなかったので、学会の飲み会などで一緒になってお話などをするようになった。研究会では、安川氏や栗原孝氏により、よく布団ムシにされていたらしい。
そういう川浦さんの訳す本だから、ジャーナリスティックな本だと、もっとひっぱりにひっぱるところなども、かるく流している。たとえばフィンランドの顔文字。笑顔=:-)。ウインク=;-) 。悲しみ=:-( 。←こっちが下だろう。もっといろいろある。%-)=困惑。5:-)エルビス(リーゼント)。:-x =口止め。などなど、なかなか面白い記号化が行われているけど、淡々と事実を描き、マクルーハン理論などを使った、こねくり回したウンチクや解釈はない。わかりやすく言えることを言っているという本だと思う。逆に言えば、日本におけるケータイ学が積み上げてきた、友人関係、若者言葉などに関するような、細密な観察に基づく、ディティールの描出一般化はないし、三浦展氏が展開した、i-modeコンシェルジェ説などの、洞察力に富んだ分析もない。また聞き取り調査の方法などについても、異論を唱えるムキも多いと思う。しかし、聞き書きのピックアップは面白いし、ケータイ先進国の事情を解説した本として、貴重な仕事だと思われる。