土橋 臣吾、辻 泉、南田 勝也三氏の編著、加島卓執筆の新しい著作が発刊されました。デジタルメディアの基礎的な説明から始まって、各分野が選りすぐられ、わかりやすく、かつ読み応えのある作品に仕上がっているように思われました。まだめくっただけなんですが、とりあえずこのタイミングを逃すと三ヶ月後くらいになりそうなので、なんか書いておきます。
- 作者: 土橋臣吾,辻泉,南田勝也
- 出版社/メーカー: 北樹出版
- 発売日: 2011/10
- メディア: 単行本
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内容
ごく幼い頃からインターネットやケータイにふれて育ったデジタルネイティブの「弱み」と「強み」に関する問題を論じ、デジタルメディア環境におけるメディア・リテラシーを総合的に考える。
目次
序章 環境化するデジタルメディア
1.「環境」としてのデジタルメディア
2.環境に閉ざされる
2−1.アーキテクチャによるふるまいの管理
2−2.環境に内在すること
3.環境を使いこなす
3−1.創造的な利用
3−2.デジタルメディアの可塑性
4.本書の構成第?部 問題を発見する
第1章 ウェブは本当に情報の大海か
1.「何でもある」は本当か?
2.情報を選別するということ
2−1.見たいものしか見ない
2−2.人気投票としての検索ランク
3.パーソナライゼーション
3−1.大海かプライベートビーチか
3−2.リコメンデーション・サービス
4.ソーシャルな情報収集第2章 ネットは自由な空間か管理された箱庭か
1.生み出す力
2.箱庭としてのインターネット
2−1.ひも付きアプライアンス、クラウドサービス
2−2.無線とラジオの物語
3.「生み出す力」とユーザーの意識
3−1.インターネットをめぐる不安
3−2.オープンソースとインターネット
4.ユーザーの立ち位置第3章 ケータイは友人関係を広げたか
1.ケータイと友人関係の切っても切れない関係
2.ケータイは友人関係を広げたか
2−1.希薄化説から選択化説へ
2−2.選択化説から同質化説へ
2−3.用いる調査データ
3.調査結果からみえてくる実態
3−1.ケータイの利用実態
3−2.量的に広がる友人関係
3−3.質的には広がっているのか
3−4.どのような友人関係に満足しているのか
4.持続される「引き算の関係」第4章 ゲームはどこまで恋愛できるか
1.美少女キャラは「俺の嫁」か
1−1.ビデオゲームの悩ましさ
1−2.ビデオゲームの心地よさ
1−3.理想の恋愛を味わうゲーム
2.恋愛ゲームの新局面
2−1.恋愛ゲーム化
2−2.ゲームとしての「ラブプラス」
2−3.ペットとしての「ラブプラス」
3.恋愛の理想と現実
3−1.期待はずれのない安心
3−2.期待はずれの生む幸せ
3−3.親密性の消費
4.仮想恋愛のゆくえ
4−1.仮想を現実的に楽しむ
4−2.仮想世界との4つのかかわり
4−3.「エクストリーム・ラブプラス」
4−4.キャラクターとの「コミュニケーション」第5章 動画共有サイトでは何が共有されないか
1.テレビ視聴のオルタナティブ
1−1.テレビにおもねらない流行
1−2.動画共有サイトの躍進
1−3.視聴スタイルの刷新?
2.録画の外部化
2−1.お茶の間の分析
2−2.テレビ欄の変貌
3.共同性の演出
3−1.ハガキ職人風の達成感
3−2.お茶の間風の一体感
4.同質性の袋小路を越えて
4−1.タグづけとフォークソノミー
4−2.情報の落ち葉をかき集めること
4−3.「類友」をかき集める技術
4−4.ビデオ・スナッキングの憂鬱第6章 iPodはコンテンツ消費に何をもたらしたか
1.偏在するポピュラー文化
1−1.文化作品はコンテンツへ
1−2.「コンテンツ」が表象するもの
2.価値の概念とデジタルコンテンツ
2−1.固有性の価値
2−2.希少性の価値
3.iPodユーザーたち
3−1.iPodをめぐる状況
3−2.デジタルをプレイするスタイル
3−3.CD棚を持ち歩くようなスタイル
3−4.MD(ミニディスク)プレーヤーの延長としてのスタイル
3−5.DJのように音楽を操作するスタイル
3−6.情報機器のユーザビリティがもたらす親密感
4.過渡期としての現代社会
4−1.それだけで充足する情報端末
4−2.価値を取り戻すために
4−3.テクノロジーの行方第?部 可能性を探る
第7章 オンラインで連携する
1.「個人化社会」で連帯できるか
1−1.「個人化」する社会
1−2.あらたな連帯の可能性へ
2.アナログ時代のファンコミュニティ
2−1.ファンコミュニティの誕生
2−2.拡大するファンコミュニティ
3.デジタル時代のファンコミュニティ
3−1.オンライン・ファンコミュニティの誕生
3−2.変容するオンライン・ファンコミュニティ
4.オンラインにおける連帯のゆくえ第8章 「つながり」で社会を動かす
1.みんなという「つながり」
2.オープンソースとしてのLinux
3.Web2.0としてのwikipedia
4.「つながり」の前提
5.いつまで経っても未完成
6.「つながり」の二重写し第9章 ケータイで都市に関わる
1.舞台としての都市、素材としての都市
1−1.舞台としての都市
1−2.素材としての都市
2.「ギャル」のケータイ的都市経験
2−1.エクストリーム・ユーザー
2−2.「ギャル」の一日を追尾する
2−3.プラットフォームとしての都市/ケータイ
3.ジオメディアの展開
3−1.ケータイで現実空間に関わる
3−2.ジオメディアの可能性
4.ケータイと都市の豊かな関係へ第10章 リアルタイムウェブを生きる
1.リアルタイムウェブは新しいのか?
1−1.「情報の速度」と「時間の同期」
1−2.いつでもどこ(から)でも
2.Twitterのコンテンツとコミュニケーション
2−1.タイムライン=コンテンツを作る
2−2.ツイートによるコミュニケーション
2−3.リツイートによる情報の拡散
2−4.Twitterは新しいか
2−5.Twitterがつなぐもの
3.Ustreamの間メディア性
3−1.ダダ濡れするメディア
3−2.擬似同期から真性同期へ
3−3.間メディア性と真性同期
4.時間がつなぐもの第11章 デジタルメディアで創作する
1.作曲の時代?
1−1.アマチュア創作の台頭
1−2.UGC/UCCの時代
2.宅録からDTMへ
2−1.デスクトップで作られる音楽
2−2.VOCALOIDの衝撃
2−3.広がるアマチュア創作
3.RO文化からRW文化へ
3−1.「やってみた」、マッシュアップ、リミックス、N次創作
3−2.コミュニケーションの誘発
〜「みくみくにしてあげる♪」【してやんよ】」
3−3.物語消費からデーターベース消費へ
〜「道夏大陸20分でわかるPerfume」
4.クリエイティブな受け手第12章 デジタルコンテンツとフリー経済を考える
1.無料経済
1−1.パッケージ販売の低下
1−2.誰が対価を支払うのか
1−3.フリー経済のモデル
2.グローバリゼーションの進行
2−1.グローバリゼーションとは
2−2.コンテンツとコンテナ
2−3.ユビキタスという大儀
3.ガラパゴス化する日本
3−1.ガラパゴス化とは
3−2.コンテンツを囲い込む
4.舵をどう握るか
4−1.コンテンツをただで配る
4−2.コンテナを利用する
4−3.おわりに終章 メディア・リテラシーの新展開
1.ソフトウェアの社会
2.「喩え」としてのメディア論
3.マスメディアとメディア・リテラシー
4.「アーキテクチャ」としてのソフトウェア
5.ソフトウェアを笑いあう
http://www.hokuju.jp/books/view.cgi?cmd=dp&num=782&Tfile=Data
昨日紹介した藤田哲司さんの著作などをみると、「ポスト『生の技法』世代」などということばを使ってみたくなるのですが、この著作はやっぱり独特の味わいを作品性として打ち出してきていて、それが吉見さんの芸風(文献サーベイ、論理性、切りたったイメージの提示など)とも違うし、北田さんの芸風(論理性とざっくりしたことばの切っ先)とも違う味わいがあるように感じました。編者はどっちかというと北田世代なんでしょうけど、この本は加島さんとか、神戸山の手のポピュラー音楽学者たちの感覚が生かされているように思いました。特に、デジタルネイティブみたいな言い方とか。
そういった作品性を湛えた人たちが、デジタルコンテンツ、コンテンツビジネスにまで論じいたっていることは、別方面にも一石を投じるものになっているように思います。すでに、歴史学をベースにスタイルを確立され作品を次々に発表されている難波さんであるとか、あともちろん増田さんとか、そういうものと並んで、このチーム、もしくは個々人が作品性を明確にしてゆくことに期待せざるを得ません。
すごく勝手なことを一つだけ言うと、今卒論でゲーム実況動画についてやっているのがいて、さっそく読ませようと思ったんですが、そいつが注目している「入れ子構造」というか、屈折というか、再帰性というか、そんなところにも役立つ議論を手っ取り早くこの本から学ぶにはどこを読んだらいいか、めくっただけではわからんちんです。たぶんどこかに書いてあると思うんですけど、どこを読んだらいいかとか、あと参考文献とか教えてくれると助かるんですけど。って、それはワシの仕事ですね。ごめんなさい。