藤田真文編著『メディアの卒論』

 難波功士さんから本をいただいた。いつもほんとうにすみません。ありがとうございました。ずいぶん時間がたってしまったが、昨日やっと仕事に一区切りがついたので、なにか書いてみようかと思う。

メディアの卒論―テーマ・方法・実際

メディアの卒論―テーマ・方法・実際

 本書は、メディアで卒業論文を書く人のための手引書である。第?部では卒論研究の時期や段階に応じて、どのように研究を進めていくかを徹底解説する。第?部では、雑誌研究や視聴者研究など、主要なテーマごとに調査・執筆方法を解説。具体的な卒論へのアプローチ方法を伝授する。メディアをテーマに卒業論文を書く場合、さらに新聞・雑誌記事やテレビ番組などのメディアを資料として卒業論文をっ書く場合、いずれにも対応した内容となっており、メディア系専攻の学生のみならず、政治学社会学、歴史、文学研究などで卒論を書く人にも役立つ、卒論執筆のための必読の一冊である。

目次

はしがき――卒論いつから始める?


 第?部 卒論を書くためのプロセス 


第1章 テーマの決め方(藤田真文)


 1時間目 論文テーマの選択は自己中心的でいい
 2時間目 論文テーマはできるだけミクロにくだいたほうがいい
 3時間目 先生とコミュニケーションしよう
 4時間目 「知ってるつもり」から抜け出そう


第2章 本・資料の探し方(西田善行)


 5時間目 文献を探す前に
 6時間目 文献を探す・集める
 7時間目 文献を読んでまとめる


第3章 資料分析・現地調査(西田善行)


 8時間目 資料分析をしよう
 9時間目 現地調査をしよう
 10時間目 調査の流れ


第4章 論文執筆に挑戦(藤田真文)


 11時間目 論文の設計図を作ろう――タイトルと構成を考える
 12時間目 設計図の詳細を考えよう――本論の展開/章と節
 13時間目 レイアウトを決めてから書き出そう
 14時間目 別にコピペだっていいんです――引用と注について
 15時間目 文章はシンプルに書こう
 16時間目 悩まない。とにかく書き出す。書きながら考える


 第?部 卒論のテーマ別アプローチ


第1章 メディア史(難波功士)――雑誌をめぐって


 1 「一生もの」としての卒論
 2 卒論へのモチベーション――そもそも、自分にとって「雑誌とは何か」
 3 雑誌を研究するのか、雑誌を通じて研究するのか
 4 雑誌(史)研究のtips
 5 あなたは忘れても、私は覚えている


第2章 ディスコース分析、内容分析――新聞記事を資料として(烏谷昌幸)


 1 手を動かしながら考える
 2 新聞記事データベースを利用した予備調査
 3 研究課題の明確化
 4 新聞記事データの収集と分析
 5 考察
 6 調査の成果をまとめる


第3章 視聴者研究――テレビの視聴時間をテーマに(金 相美)


 1 研究テーマを決めよう
 2 作業仮説の構成
 3 調査対象の設定とサンプリング
 4 調査票作成とプリテストによる修正
 5 調査実施
 6 データの分析
 7 論文執筆
 8 調査結果を元に考察を行う


第4章 インターネット――検索から、できごとのエスノグラフィーへ(是永 論)


 1 テーマを探すこと
 2 資料の集め方
 3 エスノグラフィーの実際——資料収集とフィールドワーク
 4 データ分析
 5 論文を書く


第5章 ポピュラー音楽――「ミュージシャン」を読み解く鍵(小泉恭子)


 1 ポピュラー音楽研究は「テーマ」と「切り口」で
 2 テーマの発想・絞り込み
 3 文献の集め方
 4 資料分析・調査
 5 論文執筆に挑戦


第6章 メディア産業論――ギョーカイの実態とは(浅利光昭)


 1 産業論とは?
 2 「数字」を調べて分析する
 3 卒論の完成度を高めよう
 4 メディア産業論で卒論を書く“6つのポイント”


[付録]緊急アンケート! ゼミの先生たちのホンネ。―先生は卒論をこう考えている


あとがき―卒論指導って何?


索 引
http://www.minervashobo.co.jp/book/b86722.html

 うちのゼミに来る人たちの3分の1くらいは「メディアの卒論」を書きたい人である。ポピュラー文化とかサブカルまで含めると、半分以上と言ってもいい。残りの人たちのなかには、少年犯罪だとか、そういうことに関心がある人もいて、その場合も、調査の難しさから、「メディアの卒論」になっていく場合も多い。
 なんとなくやりやすそう、とか、楽しそう、みたいな気軽な気持ちから、卒論をはじめ、ものすごく苦労したあげく、面接でカリカリになるまで照り焼きになった例をたくさん見てきた。よって、そういう卒論は、「ちゃらい系」などとレイブリングして牽制したりする。あるいはまた、メディアやお笑いで卒論書くには、大変な忍耐と芸がいるんだ、などと恫喝することもある。その根底には、私の学生に対する不信感や、指導の負担軽減などの気持ちがあることは、常々反省している。
 他方、文化やメディアで社会学のゼミをやる場合、標準的な概説書はなかなか見いだしにくい。もちろん良書はいくつかあるわけだけれども、必ずしもテキストにできるわけでもない。おまけに私はことこのことにかんしてはへこみやすく、飽きっぽいので、テキスト指定しても、2章くらいで飽きてしまう。畢竟プリントを配ったりするが、どうもゼミが散漫になる。携帯の量的調査研究、メディア史など、しっかりした成果のものをじっくり学ばせたい、と思っても、がっちりした手応えが得られないまま、1年が終わってしまい、就活の時とても困るなどと、罵倒されることになる。
 以上のような悩みを持った教師からすると、様々な方法を説いた本書は、非常にありがたい本である。曖昧模糊とした私の「メディアのゼミ」に、がっつり股ぐら一本スジ通すような、気合いを入れられたような気分である。
 単なるノウハウ本のようで、「卒論のこころ」を説くようなところもあって、コク深い読み応えの本である。たとえば、「別にコピペだっていいんです」という見出し一つ見ても、センスの良さがうかがえる。あれもこれもと詰め込むのでなく、かゆいところに手が届くような、「一生もの」のリベラルアーツの種が、あちこちにざっくり示されている。
 第?部なども、もう少し網羅的体系的にもできたのかもしれない。しかし、その辺については、最低限の配慮にとどめ(とはいえ、非常に汎用性の高い項目が選ばれているが)、それぞれの章で「テーマ別のこころ」がざっくりしめされている。私なんかからすると、もうちょっとざっくりいっちゃって、ノウハウ本的な体裁は一切抜きにしてしまえばいいとも思うが、なかなかそうも行かないだろう。
 妙なことをいうようだが、『和文英訳の修行』という参考書を思い出した。これで書けますみたいなノウハウ本はいろいろある。でも、日本語の作文を考えればわかるように、書けるようになるには、たくさん読むしかない。読んで、いろんな呼吸や、リズムや、勘所を体得する。その修行の精髄が、暗記用の文章としてリスト化したところにこの参考書の意義があると思う。ともかく覚えると、「作文のこころ」が身体化されたような気分になる。そこから主語の取り方なんて話に入っていくと、なんとなくなにかが見えたような気分になる。そこから、聴いて、読んで、書いて、話して、などとすれば、私の人生もだいぶ違ったものになったんだろうが。w
 最近のよいテキストは、このあたりの「こころ」が明示されているように思う。Do!しかり、何ができるかしかり、わかるしかり、海老ぞりしかり。それを、卒論という、学生の最大利害と直結させて、書籍化したのがこの本だと思った。