鮎京正訓『法整備支援とは何か』

 鮎京さんが新著を送ってくださった。もちろん専門外の私に理解できるはずもないのだが、岡山大学教養部で一緒に時間を過ごした先輩から何かを学び直したいと思い、少しめくってみた。奥付の略歴に、教養部を経て、となっている。私は最近これを付言しなくなってきている。多士済々の梁山泊的な雰囲気だった岡山大学教養部を久しぶりに思い出した。
 最後にお会いしたとき、各国の法整備支援と関わる仕事について語られ、最近はディレクター的な仕事に追われ、なかなかアカデミックな研究の時間がとれない、と愚痴られていた。昔から、著名な研究者についても、啓蒙的な著作については、あまり評価をされなかった。私もしばしば、サブカルチャーや若者論で修論を書いたわけではないだろうと、言われ、コツコツとアメリカ研究を続けないといけないとしばしば言われてきた。そんなこだわりを確認すべく、ページをめくった。

法整備支援とは何か

法整備支援とは何か

書籍の内容

日本の法整備支援の15年にわたる経験と、アジア諸国法研究や比較法学の成果をもとに、被援助国の人々により役立つ制度・人づくりのシステム構築をめざす法整備支援学の挑戦を描く。日本の法整備支援をリードしてきた著者による、新たな知的国際支援の創造に向けた希望のメッセージ。

書籍の目次

序 章 比較法研究と法整備支援
   1 法整備支援が比較法研究に問いかけるもの
   2 法整備支援研究からみた日本の比較法研究の軌跡
   3 日本の比較法学と法整備支援研究

第1章 「法整備支援」とは何か? それをどう考えるか?
       ―― 「近代日本の範」 と今日の課題
   1 「法整備支援」 の諸形態
   2 政府開発援助 (ODA) としての法整備支援
   3 法整備支援をめぐる日本の諸議論
   4 法整備支援の理論的課題
   5 小 括

第2章 法整備支援の軌跡と展開
       ―― 世界の動向と日本の動向
   1 世界の動向
   2 日本の動向

第3章 法整備支援学をめぐる基本的諸問題
   1 法整備支援学とは
   2 法整備支援のなかで明らかになってきたこと
   3 法整備支援をめぐる諸議論について
   4 援助と開発をめぐって
   5 法の移植をめぐって
   6 大学における法整備支援と法学教育

第4章 法整備支援戦略の研究
   1 旧ODA大綱と法整備支援
   2 新ODA大綱と法整備支援 ―― 法整備支援の理念
   3 戦略としての人材育成
   4 法整備支援と戦略論 ―― 政策提言

第5章 ベトナムと法整備支援
       ―― 事例研究として
   1 1986年ドイモイと1992年憲法体制
   2 2001年憲法改正と法整備支援
   3 ベトナムにおける 「近代経験」 と法整備支援

第6章 法整備支援論とアジア立憲主義研究
   1 第三世界立憲主義
   2 アジア的人権論の論理と構造

終 章 法整備支援はアジア諸国法研究をどう変えていくか
   1 法整備支援とアジア立憲主義の変容
   2 法整備支援をめぐる実際上、学問上の新しい課題

 携わってこられたお仕事からすれば、高らかに法整備支援学宣言をすべきなのだろうと思う。そして、本のタイトルもそのようなものとなっている。しかし、コテコテのディレクターのりでそれを書くことは、今回は慎重に避けられている。それにより法整備支援学というジャンルを揺るぎなくアカデミックなものにしてゆくのだという気迫のようなものが伝わってくる。もちろん時代の要請、社会の要請を考えると、そういうコテコテぶりにも期待するし、本書の書名は岩波新書にこそ相応しいとも思うのだけれども。
 素人知識でなんだけれども、鮎京さんの専門はベトナム法で、アジア法、外国法というジャンルのものだと理解している。一方で、比較法、比較法制度の学識、他方で、憲法学の学識(岡大では憲法の担当だった)を併せて、法整備支援が論じられてゆく。恐ろしい多忙のなかで書かれたのだろうと思うが、端正で、自制された立論にすごみを感じたし、一言では言えないような刺激を受けた。こうした刺激を与え続けてくれるような人々が数多くいることを考えると、自分の人生もそんなに悪いものではなかったように思えてくるし、そういう出会いの多くを与えてくれた岡山大学教養部のことを改めて感慨深く思い出した。