うんこさん

 電車のなかで小倉優子みたいなちょっとアニメなファッションの童顔な女性が三歳くらいの女の子をだいていて、この子供がものすごく愛嬌があって、笑顔なアウラで車内を和ませていた。ケタケタ笑いながら、歌みたいになにか言っている。よく聞いてみると、「ちそちそうそこマン」と何度も執拗に言っていて、そのうちシャウトしはじめた。女性は、こらダメじゃない、とか言わずにニコニコしながらだいている。この辺のアンバランスがまた可笑しい。乗客の人も笑っていて、私も笑いをこらえるのに苦労した。が、乗客の1人と眼があったら、ちょっとびみょん。でも、笑っている。そのとき、女の子が伸び出して手をこっちに振り出した。虚を突かれて、鼻汁を吹き出しそうになるくらい笑った。「ちそちそうそこマン」は私だったのか。でもまあなんか悪い気はしなかった。

老婆の絶望@『パリの憂鬱

La petite vieille ratatinée se sentit toute réjouie en voyant ce joli enfant à qui chacun faisait fête, à qui tout le monde voulait plaire; ce joli être si fragile comme elle, la petite vieille, et, comme elle aussi, sans dents et sans cheveux.
 小柄で皺くちゃの老婆は、誰もが心をひらき、みなが愛したがっているそのかわいい赤子を見ていると、すっかり自分が嬉しくなっているのを感じた。その子は、小柄な老婆と同じくらい華奢で、それに彼女のように、歯もなければ、髪の毛もない。
Et elle s'approcha de lui, voulant lui faire des risettes et des mines agréables.
 そこで老婆は近寄り、にっこり笑いかけ、うれしそうな顔をしようと思った。
Mais l'enfant épouvanté se débattait sous les caresses de la bonne femme décrépite, et remplissait la maison de ses glapissements.
 しかし、その子はぎょっとして、心やさしい老女の愛撫を受けながら、身もだえし、家中を耳をつんざく泣き声でいっぱいにするのだった。
Alors la bonne vieille se retira dans sa solitude éternelle, et elle pleurait dans un coin, se disant: – «Ah! pour nous, malheureuses vieilles femelles, l'âge est passé de plaire, même aux innocents; et nous faisons horreur aux petits enfants que nous voulons aimer.»
 このため心やさしい老婆は永遠の孤独へともどっていった、片隅で泣きながら、ひとりごつには、
 「ああ、わしら、哀れな婆らは、無邪気な子にすら好かれる年を過ぎ、かわいがろうと思う子を怖がらせてしまうんじゃ」と。
http://genji-id.hp.infoseek.co.jp/00spleen.htm

 まあしかし、こんなのもある。「窓あけた笑ひ顔だ」(尾崎放哉)。で、マイミクのいさむし経由のネタ。アニメのうんこさんが大反響。うんこが主人公のアニメ。これが流行るんだったら、私が学生時代にデザインしたスヌーピーのできそこないみたいなキャラであるちそこさんだって流行ったかもしんないじゃん、30年早かったか、とか思ったりして、笑った程度なんだけど、これが国際問題になっている?らしい。

 関西ローカルの深夜アニメ「うんこさん」をご存知だろうか。今年4月から7月まで関西テレビで放送されていた「うんこさん」は、“ツイている人にしか見えない”という伝説の島で暮らす妖精「ウンコロボックル」たちの何気ない日々を描いた、1話3分弱のシュールなストーリーの作品だ。
・・・・
 中国の環球時報によると、問題となっているのは「キム・ベン」という名のキャラクター。ほかのキャラクターに比べて目が細く、身体は長め、公式ホームページでは「硬派な高校生。とても怒りっぽくキムチが好物」と紹介されている。このキャラクターの存在を知った韓国のネットユーザーが、「『キム・ベン』は明らかに韓国人を意識した設定となっている」と問題視した……というのが今回の騒動の概要だ。
・・・・
 「日本は大便で韓国を侮辱した」とのコメントを紹介している。また、「キム・ベン」が暮らす場所は、“アンラッキーバレー”と呼ばれる「運のない」場所であり、「過激」「怒りやすい」「キムチが好物」といった韓国人に対する日本人の画一的な見方が「日本の嫌韓」を表していると主張。
http://www.narinari.com/Nd/20090812131.html

 上のサイトにあるキャラ設定を見ると、あんまり深く考えないで、ババだとか、のぐそだとか、「ベン」だとか、うんこがらみのやつをいろいろもってきて、でもって、おやじギャグめかして、ちょっとひねりをきかせた、というカンジ。作者に悪気はないのだと思う。しかし、ディバイドを議論するときは、悪気のなさ、邪気も批判の対象にはなる。ジェンダー障碍者などの問題でも、話はいっしょだろう。「キム・ベン」は、たぶん勤勉にも引っかけているんじゃないかと思うんだが、炎上し始めたら、火に油を注ぐようなモンだろう。まあ、考えてみると、社会心理学の初級講義で「ステレオタイプ」を説明するときに教材にはなるだろうし。ただし、「アジアの他国をバカにする日本人」というのも、たぶんステレオタイプだと思う。
 あまり騒ぐほどのことでもないような気もするが、笑ってすませられない現状にはゾッとする。カナダ人やアメリカ人は怒らないだろう。「ベンソン」というキャラは、明らかにベン・ジョンソンにひっかけたカナダ人キャラだろうが、かなりアバウトにアメリカも混入している。アメリカ国旗みたいなのがコーティングされ、短距離が得意で、「YESしか言わない」などとなっている。これも日本人のステレオタイプを茶化した感じ。まあだから、日本人は余裕あり、とか言いたいわけじゃない。だって、「もっとしっかりやり魔性」と変換ミスした通知票を渡した先生が新聞沙汰になって、大騒ぎしているのが今の日本だから。
 かといって、売れるネタ、騒げるネタ探しゲームを批判するんじゃ、ノウがないのは間違いがない。中野収『メディア人間』も言うように、ワイドショー的なものしか表現できないものがあるわけだし、売れるネタ、騒げるネタ探しもまあそれなりに面白い。すべて東スポ化したら、それなりに面白いが、みんな東スポのシャレ100%というのも気味悪い。
 日本人キャラとしては、うんこさんの親友親子が「BABAさん」というのと、のぐそとかなんだろうが、この辺のキャラが弱いっちゃ弱いね。その辺がシュタッと通ってれば、しょせん人間クソ袋、みんなうんこだ、世界は平和、とか言えたんだろうけどね。ゲイパレードを模したフンパレードとかやって、関係者大活躍みたいな、とか。でもって、サミットなんかもね、『最後の晩餐』みたいにして、首脳がグバグバ、オッとクリントン渾身の気合いの野太い一本(自粛、とかゆうことになったら、大注目ですけど。