ヲワライターの眼@石田若林

 おーぢしんにはぶっ飛んだ、と言いたいところだが、夜ふかし爆睡、けっ飛ばされても起きない、などと思っていた岡山時代でも、阪神の震災の時は飛び起きてテレビをつけた覚えがある。実は、今回は起きなかった。1人もなくなったかたがいなくてよかったと思ったのだが、実は大量の本に埋まって亡くなった方がいたようだ。本立ての前で寝たりすることもあるので、他人事ではない。震災の時は、本がヒュンヒュン飛んできたという話もある。
 今年の卒業アルバムとかで、男子校とか、あるいは大学のアホサークルとかで、きっと全員オードリー春日のポーズで胸はって肩いからせて、同じみたいな顔で笑って、集合写真を撮ったのがたくさんあるだろうな、1人くらいはトゥスのほうをやっているだろうな、とか思う。そのオードリーも出ていた『ザ・ドリームマッチ09』について、ラリー遠田さんの分析が出た。最近あまり見かけなくなったので、オワ(梶原九段の囲碁用語)になったかと思っていたが、変わらぬ健筆であります。

 11組の中で最優秀コンビに選ばれたのは、石田明NON STYLE)と若林正恭(オードリー)のペア。昨年のM-1優勝者と準優勝者のゴールデンコンビが、本格的な漫才で見事栄冠に輝いた。彼らの勝因はどこにあったのか。漫才の「ネタ」と「見せ方」の2つの側面から分析してみたい。


 まず、「ネタ」について。彼らはネタ作りにあたって、自分たちが世の人々からどう見られているのかということを意識していた。そして、「オードリーの若林は、春日と比べて地味」「NON STYLEは、M-1優勝したのにオードリーより売れてない」という世間のイメージを踏まえて、それらを積極的にネタに取り入れていった。自分たちの悪い印象を逆手に取って、見る者の心をつかむことに成功したのである。


 さらに、彼らは、それぞれが元のコンビで見せている一発ギャグやお決まりの掛け合いを、ネタの端々に挟んでいった。2人がちょっとした口論の後に仲直りして向き合って笑う。石田が自分の太ももを叩いてつっこむ。誰もが知っているお決まりの流れを随所に詰め込んだのは、それを待ち望んでいる観客の期待に応えたいという彼らのサービス精神の現れだろう。


 また、このネタは単純に漫才としての完成度も高い。ネタの枠組みとしては、バーベキューに行くことを題材にしながらも、その中で2人が仲良くなれるかどうかという一回り大きな物語も同時並行的に進んでいる。後半には一気にたたみかけて盛り上がりを作るくだりもあり、オチもきれいに決まっている。漫才のお手本のような見事なネタだった。


 石田と若林は、それぞれがコンビでネタ作りを担当している。そんな2人が手を組んだからこそ、ここまで隙のないネタが仕上がったのだろう。M-1で若手漫才師のトップに立った彼らは、漫才作家としても一流であることを証明した。


 次に、ネタの「見せ方」について。ボケ役の石田は、体全体を使って激しく動き回り、小さいボケを次々に繰り出していった。一方の若林は、観客に向かって話しかけるような独特のしゃべり方でネタを先導していった。動きとテンポの良さが売りのNON STYLEの漫才。言葉の切れ味と2人の関係性が売りのオードリーの漫才。それらが高いレベルで融合して互いの持ち味が引き出されていた。見た目がさほど派手ではない2人だが、漫才師としては突き抜けたセンスと独創性があることを見せつけたと言えるだろう。
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=53&id=926344

 さすがに細かくみている感じ。技術とネタというのは、ラリーさんが得意とする批評枠組の一つと言っていいだろう。特に技術論やパフォーマンス分析は、お笑いをみて楽しむ人間には貴重なガイドブックみたいになっていると思う。ウンチクかますための理屈じゃないから、サクッと入ってくる。
 で、これを読んで、もう一回録画を見てみた。ひつこいくらい、石田の片手モーションがプッシュされていたことに気がつく。これが流行らないのは、いいことか、わることかわからない、というかたぶんいいことなんだろうな。これだけだと、小島のできそこなみたいなかんじだしな。もう関西ぢゃけぇがんがん行きます的な、石田のアップテンポのモーションは、加速度的に太陽なんちゃらスパパパパンとパンクに炸裂してゆく。水の中から出てくるスローモーションと意味わかめさが、実にわははははは、だったくらいにしか思っていなかったが、プロライターはすごいモンだと感心した。
 若林の上野洋子ばりのイケズな寸止め稼業が、キレと同時に間合いを創り出しているみたいな、オードリーのスリリングな不足感は、なかったといえばなかったが、まあそれは10日じゃむりなんだろうな。いっこく堂の口とべしゃりのズレに喩えていいかどうかわからないけど、あるいは、変拍子っぽいみたいなことも言いたくなるけど、「引き」のスリルみたいなのが漂っていて、そこにトゥスとか、ワハハハハとか、般若とか、無造作に入るみたいなのが、ノンスタとやったらどう変化するか、みたいなことを、オードリーサイドからみると思うわけだけど、なんかもっとみてみたい気はする。まさか、マツモトはS-1グランプリとかつくんねぇよな。シャッフルワンぎめみたいなの。