バカ番組考(承前)

 学会によって集まる人が異なる。企業や行政などとのつながりが大切な学会においては、社会性のある服装、立ち居振る舞いの人々が集まっている。社会学会でも部会によっては、スーツを着た人が多い。でも、なんか他学会で見かけるようなスゴイスーツを着た人はほとんどいない。カバンを持った姿勢などは独特で、学会に行くと、もよりの駅を降りたところで、「これは間違いなく同業者だな」などと思う人が散見され、例外なく会場に入っていくと、笑ってしまったりする。
 さすがに最近の若手は、スーツを着て学会報告をしているけれども、私たちの頃は、ジーンズにカジュアル、下手するとサンダル履きでも、別に注意されたりしなかった。私の出ていた理論や文化の部会は、特にグランジで、ナスティで、スカンキーで、キンキーで・・・みたいな、妙な気どりがあり、気に障る人には障るみたいだけれども、なれてしまうとなかなか居心地は悪くない。その部会で、いささか「場違い」な、つまりはきちんとした服装身なり、立ち居振る舞いで、凛とした知的なアウラをはなっている先生が報告された。報告のなかみは、日本のテレビ番組についてで、長い外国滞在から帰国されてテレビを見て、あまりの酷さに驚いたというのがモチーフで、批判的な論を展開されていた。
 文化の部会の重鎮のひとりが、日本にいらっしゃらなかった時代にいい番組がいろいろあったんです、と発言されていた。例として、カノッサの屈辱をあげていた。それなりに内容のあるバカ番組もあるということだったのか、そのあたりでその場をおさめようとされていたのか、いまだにわからないでいる。後者ならわかるのだが前者だと、ちょっと異論がある。バカ番組の知識・教養性ではなく、知識・教養作品のバカ番組性みたいなものこそ大事だと思ったからだ。
 十月半ばに、次のようなニュースが2ちゃんにでた。「1 :☆ばぐた☆ ◆JSGFLSFOXQ @☆ばぐ太☆φ ★:2008/10/14(火) 19:28:09 ID:???0 若者のテレビ離れが進む中、民放各局が中高年向けにシフトし始めた。バラエティやドラマ 全盛だったゴールデンタイムに、ドキュメンタリー番組をぶつけてきたのだ。視聴率アップの見通しはあるのだろうか」。NHKゴールデンで視聴率トップというショックで、テレビの枠組みが変化するという言説がいろいろ出され、あいかわらずアホなバラエティつくっている日テレ泣ける歌を嗤うものもあった。月9にやりすぎコージーをぶつけたテレ東は、あまり相手にされていなかったのは笑えた。ほんでもって、今日のみくしニュース。

オバカ番組を吹き飛ばしたテレ朝の新ドキュメンタリー

 秋改編の最終ランナーは今どき珍しいドキュメンタリー番組だが、これが異例の高視聴率を記録して話題である。番組はテレビ朝日が3日にスタートさせた「報道発 ドキュメンタリ宣言」で、視聴率は22.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。


 この番組はキャスターに報道番組が長い長野智子を起用。人間にスポットを当てて、その人の苦悩や葛藤を取り上げる。初回は「女優・南田洋子がテレビから忽然と姿を消した理由」で、認知症になった南田と介護する長門裕之の夫婦に迫った。


 内容が地味、放送が19時台なのに、この高視聴率にはテレビ業界もビックリである。そもそもドキュメンタリーは視聴者が少なく、スポンサーもつかないため、番組を打ち切る局もある。今秋からドキュメンタリー色の強い番組を水曜夜に並べたTBSはスタートでつまずいている。それだけに快挙といえる。


 東京工科大学メディア学部の碓井広義教授がこう言う。


「40代以上にとっては身近なテーマを、誰もが顔を知っている人を起用して、きちんと描いたことが視聴者に受け入れられたのだと思う。それが23%近い視聴率になったわけで、とても価値ある数字です。テレビを制作する人にも参考になった番組ではないでしょうか」


 おバカを起用してバカ騒ぎしているTVマンは「ドキュメンタリ」を見習った方がいい。
日刊ゲンダイ2008年11月6日掲載)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=10&id=661699

 これを見ていないのでなんとも言えないが、たぶんいろいろな要素が重なってこの番組が高視聴率だったんだろう。別にいい番組だったかどうかはそれだけではわからない。でも、数字をとれるなら、逝って来ますみたいなことは起こるだろう。つまんない美学や倫理を押しつけがましく伝えるような番組が量産されるのは、薄気味悪い気がする。でも、番組が面白いかどうかみたいなことは、どーでもいいのかもしれない。テレビ全盛期の川口探検隊の鬼くだらなさは筆舌に尽くしがたいし、どこかで拾ってきたような岩一つで90分スペシャルでっちあげたようなバカ番組のバカさ加減は、お話にならないような低俗さだったと思う。でもそのみられ方というのは、それなりに新しいものがあったような気がしてならない。テレビが見られなくなったのが、みられ方が出尽くしてしまったからなのかとか、そんなことをボーッと考えている。
 バカ番組は好きなのだが、逆に討論番組とか、ドキュメンタリーをバカ番組っぽくやればいいってもんじゃないとは思う。また、バカ番組ならなんでもいいってもんでもないとも思う。ここで思い出したのが、お台場明石城に出ていた、バラエティ大嫌い、報道記者志望でテレビ局に入ったのに、お笑い番組などのADさせられちゃっている村上真理子のふてぶてしい相貌と、酒焼け女性幹部も顔面蒼白なハスキーボイスのツンデレセリフと、意外に軽妙な編集力とお笑いセンスなのだが。