プロ柔道家なのか?それとも柔道引退なのか?

 石井ちゃんプロ転向、って、記者会見は週明けだし、何を言うかは楽しみだが、宮中でも思わず言ってしまったカンジだったし、「口が裂けても言えない」とフォローしたにしても、恐ろしく強い気持ちを感じたプロレスファンは多かったんじゃないだろうか。格闘技が好きな人には、たいして不思議なことではないかと思う。石井ちゃんは、柔道引退宣言をするのだろうか、それともプロ柔道家宣言をするのか、それが問題だと思う。
 格闘技に参戦するのは、オリンピックでメダルを取った直後に、「柔道では世界一になったが、世界にはまだまだ強い椰子がいる。ヒョードルノゲイラ、ミルコ・・・」と言った時点で、「予定の行動」だったのかもしれない。ただ、石井ちゃんとしては、格闘技もして、でもって、時には柔道家として選手権とかに出て、オリンピックのメダルも取るみたいな夢を描いていたンじゃないかと思われてならない。でも、それがそんなに簡単なことじゃないことを、目の当たりにして、どうしよっかなぁ、みたいなところはあったんじゃないか??

柔道・石井慧がプロ格宣言 大みそかリング登場か

中日スポーツ 2008年11月1日 紙面から
 やっぱりプロ入り−。北京五輪柔道男子100キロ超級金メダリストの石井慧(21)=国士舘大4年=の総合格闘家転向が、31日決まった。全日本柔道連盟全柔連)に事実上の現役引退を意味する強化指定選手の辞退届を提出し、受理された。3日に大阪市内で記者会見を開き、正式にプロ転向を表明する。日本の五輪柔道金メダリストのプロ格闘技転向は、吉田秀彦滝本誠に続いて3人目。プロ格闘技界は相次いで石井の獲得を表明したが、現状ではDREAM参戦が濃厚だ。
 異端の金メダリストが、ついに柔道着を脱ぎ捨て、プロのマットに上がる。黒のニット帽を目深にかぶり、グレーの長袖Tシャツ、迷彩柄のズボンに身を包んだ石井が、柔道界から事実上の引退を意味する強化指定選手の辞退届を携えて東京都文京区の講道館に現れたのは、午後1時10分すぎ。後援会関係者2人に堅くガードされ、待ち受けた50人近い報道陣に口を開くことなく、建物内にある全日本柔道連盟全柔連)へ向かった。
 石井は自ら辞退届を提出。応対した津沢寿志事務局長によると、落ち着いた様子で「柔道でここまでになれたんで、(新しい世界でも)頑張っていきたいと思います」とあいさつしたという。石井の固い意志を確認した全柔連はすぐに強化選手除外の手続きを取った。これにより、選手自身による辞退届の持参・提出という異例の儀式を経て、念願だったプロ転向への障壁が取り除かれた。
 一連の動きに、全柔連幹部も冷静、達観の様子だった。吉村和郎強化委員長は「おもしろい素材で、他の選手への刺激という意味でも惜しかった」としながらも「ロンドンを目指す人間を徹底的に鍛えるしかない」とすでに目線は4年後へ。上村春樹専務理事も「価値観の違い。ゴタゴタを引きずるよりはスッキリと新体制をスタートさせた方がいい」と、どこかほっとした表情だった。
 石井は報道陣を避けるように講道館を去り、コメントを残すことはなかったが、同行した後援会員の金建龍弁護士は「11月3日の(後援会主催の)祝賀会で、石井の方から話があると思います」と説明。その席で石井は正式に総合格闘技転向を表明する。数々のドタバタ劇の末、ようやく「プロ格闘家・石井慧」が誕生する。 (川村庸介)
http://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/battle/news/CK2008110102000149.html

 おりしも、石井ちゃん対策というわけじゃないんだろうが、柔道界がランキング方式を取り入れ、柔道の試合に出続けないと、オリンピックには出られないということになるらしい。年齢が上がって、引退してからならともかく、現時点で柔道最強の椰子が、柔道の日本選手権にも、世界選手権にも、オリンピックにも出ないというのは、非常に興ざめということだけはたしかではないか。
 ただ野球と柔道は違うだろうとは思う。野球の場合は、アマ球界があり、そこには利害があり、プロの指導というのは、いろいろな意味でフリクションがあるのだろう。また、日本の野球と大リーグの関係にも、同じようなことが言えるだろう。そこの一線が守られれば、WBCなどではプロとアマ混合でかまわんということになっている。(まあ現実はプロばかりなわけだが)。
 それに比べて、柔道のほうは、指導者のポストが脅かされるわけではない。パフォーマンス的にも、格闘技仕様のショウアップされた大会がアテネ後にテレビ中継され、ちょっと気恥ずかしそうに金メダリストが「出演」していたのも記憶に新しい。サマランチ以降において、金への潔癖ということもなくなったはずだ。そして、実質プロの人も多いのではないかと思う。さらに、柔道界だって、それなりの資金は必要なはずだ。スポンサーシップというのは、社会的注目と切り離せないだろう。
 私としては、柔道引退宣言をするのではなく、プロ柔道家宣言をして欲しいと思う。木村政彦遠藤幸吉というと、柔道家としてはともかく、レスラーとしては、力道山の後に続くものという印象が強く、印象はよくない。しかし、石井ちゃんは、彼らやそれ以降に続く、柔道出身の格闘家とは違い、バリバリのこれからの柔道家だったのだ。プロ柔道家宣言というのは、革命的な内容を含むと思う。武道や恩師へのケジメをビシッとつければ、世の中の共感も得られるだろう。この辺のパフォーマンスをどう行い、闘うかはこれからも重要なことで、石井ちゃんの格闘家としてのインサイドワークが見物である。
 おそらく石井ちゃんに必要なのは、強くなって最強を示すとともに、そこにおける「大好きな練習」というコンセプトを、武道として理論構成し、世の中の共感を得ることではないかと思う。柔道の協会も、諸外国の露骨なやり口にオタオタしてきたことを一掃するようにして、石井ちゃんの存在を上手く活用して、強い武道によって、タックルとボディースラムの柔道を一ひねりにするくらいのしたたかさをみせて欲しい。自分とほぼ同世代の山下泰裕斉藤仁は、高潔で立派な人であると思ってきた。画期的な結論を導き出すことができないものかなぁ。