素浪人月影兵庫始動

 忙しくて録画したものがたまりまくりなワケだが、一部で話題騒然の『素浪人月影兵庫』をようやくじっくりみました。番組の前に、突然松方さんがあらわれ、「見てください、時代劇のためです!」とシャウトしたのは、マジ本音だろう。まず印象に残ったのは映像の美しさで、最近の気合いの入った時代劇はみんなそうなわけだけど、映像技術もカメラワークも数段進歩した部分もあるぜ、今も名匠はいるんだぜというような気迫が伝わってきた。おそらく私より上の年代の人が見たら涙ものの風景が奥行きのあるしっとりした映像として提示されているように思います。孫がWiiをやっていても、自分たち用のテレビをもった人々が、あるいはゼミ合宿で行った山の風景、あるいは棄て去った故郷の風景などを思い出しながら、そーいや『紋次郎』や『木曾街道一人旅』などもみたっけ、などと想をめぐらし、見るのには好適なドラマではないかと思われます。もう一つ、民族音楽風のアニソン、ゲーソンが好きなこともあるわけだけど、音楽が非常に印象に残りました。

れっきとした旗本の次男坊にもかかわらず、わけあって旅から旅への風来坊暮らしをしている月影兵庫松方弘樹)は、賭場のいざこざでヤクザ者に追われている焼津の半次(小沢仁志)という渡世人と知り合う。半次は、口八丁手八丁のお調子者だが、どこか憎めない。


この半次と付かず離れずの旅を続けていた兵庫は、平塚宿近くの街道で、たちの悪い酔っ払いに絡まれている喜平(北見唯一)、おみつ(田島穂奈美)親子を助ける。そしてそれがきっかけで、品川宿問屋場『品川屋』の女主人・お涼(賀来千香子)と知り合う。お涼は夫を亡くして三年、ようやく商売の地歩も固まったため、手代の彦次郎(小林滋央)を供に、街道筋の問屋場に挨拶回りをしているところだった。


その夜、兵庫や半次、そしてお涼らは平塚宿に宿を取る。ところが、宿場で火災が発生し大騒動になってしまう。


この騒ぎの中、半次は胸を匕首で刺された男を見かける。男は喜平で、付け火の現場を見たと告げると息を引き取ってしまう。


翌日、兵庫は、炊き出し用の米を荷車で運んでいる平塚代官・黒川軍太夫石倉三郎)と顔を合わせ、自分の役目は町の人々を守ることだという軍太夫の言葉にすっかり感心してしまう。


そんな中、兵庫は余り会いたくない人物を見かけて逃げ腰になる。それは、榊原東馬(高知東生)という兵庫の甥の家臣で、甥の妻・桔梗(古手川祐子)とともに、兵庫を江戸に連れ戻そうとしている男だった。実は、兵庫の甥は幼少の息子を残して病死、桔梗は息子が成人するまで兵庫に家を継いでほしいと願っていたのだ。
引用もと:http://www.tv-asahi.co.jp/tsukikage/

 やさしさのかけらもない「今/ここ」を生きていると、ドラマ空間に横溢している人の「情」というものがやたら懐かしく、狂気と悪意と善意と情愛がせめぎ合っていたはずの過去の空間が、「美しい国」として美化され、かつ心の底からわき上がってくるようなぬくもりを感じるのを抑えられないといったふうにしておいて、それを最後の最後でどんでん返しするという仕掛けは、ドラマを善と悪の峻別ではなく、両義的な苦い味を残すものになっており、漂泊というユートピアをめぐる裏表の構図で、最後の殺陣を締めくくったのは、実に鮮やかであったと思います。
 コント・レオナルドの喧嘩最強893も真っ青、でも糖尿病の石倉三郎が、東映大スターの松方さんと竜虎相打つという図も昔ならあり得ないカンジでしょうが、今はまったく不自然がないのがすごいなぁと思いました。
 品川隆二がどのように出てくるかというのも、一つの興味で、ナゾの老人というから、説教クサイぢぢいが出てきたら興ざめだなぁなどと思っていたら、馬路逝ってよし状態なカンジで、焼きがまわったぢぢいが、絞り出すように、焼きがまわりまくりの台詞回しで、怒アップになったのは、オールドファンならずとも、なかなか興趣あふれるものだったのではないでしょうか。どひゃひゃひゃひゃがでなかったのは残念だけど、やっぱり昔のカンジが思い出されました。
 小沢と松方さんが、これからどう役作りをしていくかは、見物です。見るまでは、東映で悪役などを多くつとめた近衛十四郎がみせる殺陣のすごみばかりが思い出されていましたが、今回見てみて思い出されたのは、近衛と品川の掛け合いのほうでした。近衛が、おねえちゃんかなんかに鼻毛を抜かれて、うひょひょ状態のところを、品川が「このおーばかダンナ野郎が、鼻の下のばしやがって」、近衛が「そ、そうか、うひょひょ」などとやり、また品川がちょーしこきまくりのときに、近衛が「この馬鹿たれが」とやりあい、蜘蛛が出てきて、品川がどっひゃ〜〜と驚き、しかし、悪人をやっつけるときには、きりっと殺陣をする、しかも品川のほうは蹴りを入れるとか、めちゃくちゃな剣法であったりするのが、ある意味木枯らし紋次郎の殺陣を先取りしていたようなこともあり、半端じゃない滑稽味だったように思われます。この番組のファンは、『ゲバゲバ90分』や『噂のチャンネル』を例外なく好きだったのではないかと思い出されました。