上野洋子ソロライブ

 ZABADAKのアルバムと最初に出会ったのは、岡山大学筋にあったレンタルショップである。ペパーランドとこの店は、最新の情報を与えてくれる場所であった。バンドやっている人たちが切り盛りしていて、当然裏情報にも通じている。地方に赴任したばかりのころ、情報への飢えをどうしようもなく感じていた。それを癒してくれたのが、この店だった。スタッフリコメンドペーパーは、タワレコのこあな店にも負けず劣らずだったと思う。イチオシだったZABADAKの新譜をレンタルし、気に入って、その日のうちに注文した。あれから20年というのは、きっちり計算があう。
 その記念のライブに行ってきた。「二度とやらないだろうから、ファンはどんなことをしてもチケットを手に入れていくだろう」などと某掲示板には書いてあり、みくしには「マーシュ・マロウでも、インプロセッションでも、イベントのゲスト出演でもない、ソロコンサートです」とレアぶりが強調してあり、某ファンサイトにはこの曲をやって欲しい投票サイトまでできて大変な騒ぎになりつつも、「意地の悪い上野洋子はきっと冷ややかに無視するだろう」などとすました顔でワクワクしているというなかなかのファンぶりで、なんとも興趣あふるることになっていた。しかし、みくしの情報は公式サイトより早かった。そして、メンツには、たいして音楽に詳しくない私もぶっとんだ。

日時:2006年12月10日(日)open 17:00 start 17:30
会場:東京キネマ倶楽部 http://www.kinema-club.com/
出演メンバー: 仙波清彦(ds) 、海沼正利(per) 、中原信雄(b) 、鬼怒無月(g) 、武川雅寛(vn,tp,mandolin) 、棚谷祐一(key)

 場所は根岸、彦六師匠、三平師匠などゆかりの地、昔懐かしいグランドキャバレーを改造したライブハウスが、東京キネマ倶楽部である。鶯谷の南口を降りてすぐ。場所がわからなかったらどうしようと思ったんだけど、駅前の階段を降りたらすげぇ行列ですぐにわかった。遅れていったのだが、整理番号が早かったので、先頭のほうに案内された。なかにはいると、馬路グランドキャバレーだよこれは。二階席がせり出していて、うしろにはすごいソファーがあって、舞台は円形で、降りてくる階段までついている。むかしは、マリリンみたいなのがそこを降りてドゥドゥッビドゥなどと歌ったんじゃないだろうか。
 客層は老若男女長短細太さまざまだった。地方から泊まりがけ出来ている人も多いようだ。オタク、腐女子風も多数目につく。アニソン、ゲーソンのファンなのだろうかと思ってみたりもする。あれだけの行列が出来るライブは久々だ。みんな入れたのかな?立ち見がちょっといるくらいだったから、締め出しはなかったんじゃないかと思う。そして、コンサートははじまった。その辺の飲み屋で呑んでそうな、カジュアルな服装のオヤジたちと、アコーディオンをもった上野洋子が登場。上野は、パッツンパッツンに頭と衣装と化粧を決めて登場。思わず、サロメ角田キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!と一瞬思ったが、たぶんライザ・ミネリ風だったのかもしれない。だって、キャバレーだもの。ともかくドハデ、MCで「ここのメンツ平均年齢50手前だし、楽屋では肩こりの話とかしていて、でもさ、やっぱ、化粧ってすごいよね☆」などとやって笑ってしまった。上野洋子というと、すっぴんで髪うしろで束ねて、日当たりのいい白い喫茶店かなんかで、編み物かなんかしているクロワッサンなおばちゃんというかんじだけど、今日は違う。ショムニ戸田恵子もぶっ飛ぶ有頂天キャバレーで、MCもキレまくっていた。
 「自分が作った曲だけをする、今しないと一生しないと思うから」というのが、主題提示。コンセプトはポップということみたいだったが、難しい曲というこだわりもあったようだ。メンツの一人が「綺麗っすね」みたいにゆったら、「そんなこと言っても易しくしない」などとイケズにやり返していたし。拍子がえと、重ね合わせなど、この椰子とやっているから、書くものがだんだん難しくなってきたと言われた仙波清彦は、上野のツッコミにドラムス演奏でこたえ、漫才のようになっていた。
 演奏は、楽器も、声も、ヒュルヒュルとつむじ風のように変幻自在で、安易な同定を拒否するようであった。エスニックなメロディが奏でられ、マカロニウエスタンみたいにすっとぼけてさえずり歌いまくり、しかしリズムとビートはうなりを上げながら破調に暴走し、なんか氏にかかったシェーンベルクビートニクの集会に現れて、わけのわからない踊りをニール・ヤングと踊っているみたいでもあり、また、オレたちクリームだぜみたいだったのが、おちょけてドアーズしているみたいになり、そこから初期のグレードフルデッドみたいな曲調で、これってヘイトアッシュベリーなサイケデリック?、それともフルクサス?みたいな映像が背面スクリーンに映し出された。前の方であんちゃんが68年っぽくずっと踊っていて、けっこうロックじゃんみたいな。どうも、話が働くおっさん劇場になってまいりましたが、こんなワイルドで凶暴なまでの音楽だったっけみたいな感じになることもしばしばでありながら、上野洋子上野洋子で、初期のメロディが好きな人にも、マザーグースが好きな人にも、パステル画かなんかを描きながら紅茶を飲みながら聞くのが好きという人にも、もしかすると、「ひょっとしてハーベストレインを歌ったりして」というかなわぬむなしい期待を持ってきた人にも、ちゃんと満足できるようなつくりになっていた。
 メンバー紹介は期待していなかったのだが、私のようなあまり知識のない者にもわかりやすく、どんなゆかりの人たちか、どんな活動をしている人たちか、丁寧に説明してくれ、ありがたかった。しかし、バイオリンを奏でながら、片手にペット持って、曲芸技みせていた御大に「ムーンライダーズのあの人ですよ。ぜんぜん違うようにみえるかもしれないけど」には、笑ってしまった。ちなみにボクのメガネは黄色のムーンライダーズ白井メガネだったのだが。さらには、一曲のなかにそれぞれのソロが入るものを入れていたのには、ちょっとビックリした。昔よくやっていたヤツね。「ギター、ぬのぶくろとらや〜〜す(注記:一応このくらいは読めますから)」などというと、ヘロヘロヘロって弾くヤツね。でもこれすごかったっす。私は楽器のこととかあまりわかんないけど、すごく上手な(w)人たちだということは、それでもわかりましたし。w上野洋子も技術の粋を尽くして、ボーカルっつーものを脱構築してやるぜみたいな勢いですごかったです。
 舞台の階段はつかわないのかね、さすがに。上野洋子がドゥドゥビドゥやってもいいんじゃないのと思っていたら、階段の踊り場に途中で白塗りの舞踏が出てきて、くねくね踊っているの。なんじゃこれは??と思ったけどすごい。スクリーンにも映し出された。最後の紹介で、駱駝とかゆっていたが、麿赤兒率いる大駱駝艦天賦典式ですか??よくわかんないけど、踊った松村さんを村松さんとかゆっていた。そして、松村さんはなかなか気さくな人で、でも白塗りでわりに不気味でした。w
 最後に「一つわがまま言わせて」って、あんたちあきなおみかよッツーお願いで、なにかと思ったら、「アンコールはナシ。自分のライブをするときはそうするつもりだった」。まあたしかにそうだよな。一度なんか、演目にアンコール曲二曲書いてあって笑ったことあるし、また、拍手がなりやみそうになって、お店の人とかスタッフが手が真っ赤に鳴るくらいに叩いていたこともあるし。「ストーリーを考えてつくった演目だから」とかゆっていたときは、メドレーのとき「ざばだっくとヴィータノバとガメラと意味ねーっす」とかゆっていたくせにとツッコミ入れたくなったけど、まあそれはいいじゃんかと。
 裏方助演が多く、「真ん中にいるのは居心地悪い」ということだった。そうでもないだろうと思ったけど、たしかに、マーシュメロウのときは、目立たぬように、目につかないところをカサコソしていた。アニソン、映画音楽、CFの音楽をつくって暮らしを立て、いろんな企画に参加し、夜な夜などっかの小屋で飲んだくれという生活は、うらやましい限りだ。しまいの曲だけは、なぜか歌詞がガツンと頭に残っている。そういう仕掛けなのかもしれない。氏んだら亡骸には無造作に土をかけ、忘却の彼方に、跡形も残らぬようにということばは脳天に突き刺さった。
 最後にそれでもアンコールになったらどうするのかと思った。ちょっとだけ、拍手が鳴りやまないかなという雰囲気もなくはなかった。しかし、計算尽くなのか、もう一度メンバー紹介して、引っ込んじゃった。それでも鳴りやまなかったらどうしたんだろうか。みんなで暗黒舞踏でも踊る計画だったとすればすごすぎる。
 東京キネマ倶楽部、来週は上々颱風、20日過ぎにはエゴラッピンがあります。しかも二日つづき。重なるけど、高円寺じろきちで仙波清彦が、ちらしのなかにマーシュメロウのやつが入っていて、思わず「混むから宣伝しなくてよし」と思ったのでした。それにしても、映像をとっていた感じだったけど、ライブ版のDVDとかはでるのだろうか?CDくらいはでないか?オンデマンドでわけてくれないか?などと思ったのでありました。